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第18話
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類は、小さい頃から大人しいとか、かわいいと言われる子供だった。
年の離れた兄や、沢山いる従兄弟たちからもこまごまと世話を焼かれていた。素直で穏やかな性格は誰にでも好かれ、知らない人にもいつも親切にしてもらっていた。
物心ついた頃、気づくと好きだったのは男の子。でも、それを周りに言うと戸惑った反応が返ってくるため、いつの間に自分の胸にしまっておいた方がいい事なのだと理解していた。
苦しんでいたわけではなかったけれど、性教育では異性との関係の話しか聞かされないことに違和感を感じていた。
同性ばかり好きになる気持ちを言っても、誰も幸せにならないんだ。そんな思いを抱えたまま、地方都市で家族や友達とごく普通の高校生活を送っていた。
それは高校二年生の夏だった。
ネットで自分と同じ性的嗜好の相手とメッセージを交わし、少しずつ知り合いを増やしていた時、年の近い気の合う相手が見つかった。
国立大学の工学部に通う大学生と名乗る相手は、相談にも乗ってくれたし、他愛もないメッセージのやり取りもしてくれた。その一つ一つが初めてで、楽しかった。
そして、簡単に恋に落ちていた。
『こちらに来ることがあったら遊ぼうよ。案内してあげるから』
そんな言葉に舞い上がって、夏休みに会う約束をしていた。
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「君かあ。ユーキくんって思ったより大人っぽいね」
待っていたのはサイトでキヨと名乗っていた20代半ばの男だった。類はユーキと名乗っていた。
「どこか行きたいところ思いついた?特に無いならまず展望台に行こう、その間にまた考えればいいから」
普段見る同級生とは違う遊び慣れた雰囲気、こなれた会話、巧みに気を利かせてリードしてくれる。家族に喫煙者のいない類にとって、煙草を吸っている姿も新鮮に見えて心が躍った。
初めてのデートに浮かれて、すっかり冷静な判断ができなかった。
町中を回って、夕方近くにカラオケに誘われた。
「あっという間に時間が過ぎちゃうね。あー、ユーキかわいい。帰らせたくない!あと少しだけ、軽く食べながら話そうよ」
遅くならない予定だったけれど、トイレに立ったタイミングで晩御飯を食べて帰ると親に連絡をして、ついて行った。
そんなの、よくある話なのかもしれない。そのまま泣き寝入りしている子もいたのだろうか。
飲まされたのはお酒だった。
甘い、けどこれ…。一口飲んでクラッっとする。
「あの、これ。僕まだお酒は…」
「え?お酒じゃないの頼んだんだけどな、店員が間違えちゃったのかな?次はアルコール抜きを頼むから、まずはそれ飲んでなよ。今日はユーキとデートできて楽しかった。ユーキも楽しかったでしょ?ね?楽しくなかったの?」
「もちろん楽しかったよ。…けど帰りが」
お酒を飲んで帰ったら何を言われるか分からない、と心配になった。
「少し時間を置けば抜けるよ。ちゃんと駅まで送るから。もしかして、俺、信用されてない?悲しいなぁ、あんなに仲良く話したのに。飲んでくれないなんて有りえないよね?はい乾杯!」
強引に進められて断り切れなくなっていった。
本格的に酔いが回ってぼうっとしてきた所でキヨの仲間が合流して盛り上がり、更に飲まされて別の場所に連れて行かれた。
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