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第20話

 夏休みが終わり、秋の気配のない暑い日が続いていた。  既に推薦で進路が決まった一部の生徒は、席替えで後ろの席に移っては気ままに過ごしていた。  その一方で密のような一般入試組は、夏休みから予備校に通い、偏差値や判定と睨みあいながら志望校を定め始めていた。 ――今日も類は来ていない。  中間テストや判定試験がある日はちゃんと出席しているが、通常の授業には来たり来なかったり。初めは気にしていたクラスメイトもその内に類が来ていない状態に慣れ、進路とか恋愛とか、それぞれの関心ごとに戻っていった。  全国模試の結果が返ってきた日の放課後。話題は、もっぱら成績やレベル判定で、お互いに勉強やっていないと言いながら周りの偏差値や、志望校の判定を気にしていた。 「密は付属じゃないよな?判定どうだった?」  前の席にいた堀田が振り向きながら聞いてきた。本人はそのまま付属の大学に行く予定だから模試自体受けていなかった。 「うーん、可もなく不可もなくって感じ」  思ったほど悪くなかった結果を折って鞄に入れ、さっき買ってきた菓子を開けて机に置くと、周りから手が伸びてきてあっという間に減ってゆく。 「親には国公立一択って言われてるけど、そう簡単じゃねえよな。あれ、勝田もそのまま上がるんだっけ?」 「あたり前だろ、そのために中学からここに入ったんだから。受験なんて絶対嫌だよ」  二人が話している横で、堀田がお菓子の袋を傾けて、少なくなった中身から一かけらをつまみ上げ、貰うよというように密を見てから口に入れた。 「ほういえば、佐藤の話だけど、新しいネタがあった。聞きたい?」 「お、久しぶりに聞いたな、堀田の『佐藤の話』」 「なんらよ、聞きたくないよかよ?」  お菓子を咀嚼しながらも、堀田はとにかく話したいらしく、誰も促さないのに勝手に話を続けた。 「噂なんだけど、あいつ富山の前に住んでたとこで犯罪に巻き込まれたんだって。ネットで見ると確かにそれっぽいのがあるんだよ」 「それほんとに佐藤なの?つか、お前そんなの調べてんのか、暇だな」 「うっせー、気になるだろ。結構えぐい記事だったぜ、見る?」  そこまで言われると好奇心が擽られたのか、密と勝田以外の仲間が堀田のスマホ画面をのぞき込んであからさまに嫌悪の声を上げたり、顔を歪ませている。  勝田は気にせず自分の端末でゲームをしていた。他愛もない噂話、それを暇つぶしの一つとして消費してゆく友達。  仲良かった訳じゃないにしても、話し位したことある癖に、一緒にこの教室にいた奴なのに。  誰に対してという訳でもなく静かに怒りが込み上げてきて、密はこの状況に我慢できなくなった。

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