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第21話
「俺、帰るわ」
密が立ち上がると、堀田も思い出したかのように一緒に駅まで帰ると言い出した。
校門に向かう途中、理科棟の前を通るたびに、夏休み前のあの日の出来事がよみがえってくる。
黙って泣いていた類の体温は、あの後何度も密の記憶に蘇ってきた。その度に胸が高鳴るような感覚に包まれていることは誰にも言えないでいた。
その上、肩を抱いた時の感触を思い出している内に下半身の熱を呼び覚ますようになっていたことに密本人も戸惑っていた。
申し合わせたかのようにデイパックを右肩に引っかけて、並んで歩く帰り道。類が自分の探し当てた事件の被害者だと決めつけた上、勝手な解釈を話し続ける堀田にイライラした密は、生返事を繰り返していた。
「でさ、メンタルやられたんじゃね?トラウマ、PTSDってやつだよな。噂が立つわ何だわでその町にいられなくなって、富山で大きい病院でカウンセリング受けてから、コネでこの学校に来たんだって。大学の方の誰かと知り合いで、大検じゃなくて普通に高校卒業にする為にここ来てさ…」
夏休み前までは聞き流せていた堀田の話には不快感を催すばかりたった。
しかし準備室で野尻に腕を取られていた時の様子や、教室で聞いたことを思い出すとどれも繋がっている気がする。
堀田の知っている話は根も葉もない噂かもしれない。でも、引っ越した先ですらこんな風に好き勝手言われるのだから、元いた所での状況は想像して余りある。逃げ出したくなるのは当然だ。
聞きたくもない話を途中で終わらせようと、密は口をはさんだ。
「なあ、くにちゃん、類ずっと休んでるけど見舞いとか行かなくてもいいんかな」
今更な気もしたけれど、やはり気になっていた。
「さあ、何で休んでるか知らないけど、お前見舞いに行くの?俺も行こうかな」
機嫌の悪そうな声だった。なのに、思ってもいなかった返事をきいて密は横を見た。次いで堀田の口から出たのは、更に意外な言葉だった。
「お前、佐藤の事を類って呼んでるんだな」
どう反応していいか分からず、密は取りあえず曖昧に頷いた。
その言葉は、勝田が類に対して地学室に一人で行くなと忠告したのを知った時の自分と同じ種類の気持ちから出たものだろうか。
今まで自分が一番近くにいると思っていた相手が、いつの間にか別のところに行ってしまう。
一年生の時から付き合いのあるこの友人も、一人おいて行かれたような気分を感じているのだろうかと考えた。
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