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第27話
沈黙に背中を押され、均衡を崩したのは密だった。
「類、聞いてくれ」
なに?と瞳で問われる。
堰を切った気持ちが密の唇から言葉を溢れさせてゆく。
「俺、類が好きだ…」
突然の言葉に類は息をのんで目を大きく見開いた。見る間に頬が紅潮する。
気付いた時には、自分をじっと見つめていたこの友人は、必死で距離を置こうとしているのにどんどんと近づいてくる。今日だってそうだった。でも、『行ってもいい?』というメッセージを読んだ時点で、何も期待していなかったと言えば嘘になる。
返事をできず視線を彷徨わせて暫く唇を噛んだ後、類は俯いたまま左右に頭を振った。
密は恥ずかしさと悔しさで泣きそうになった。
――間違えた、俺一人、馬鹿みたいだ。こんな事をいうべきじゃなかったんだ。
学校での様子を思えば、類が自分の事を嫌っているわけではない事は分かっていた。
それがどういう種類の感情であれ、距離は近かった。
言わなければ、曖昧なままでいることができたのに。口から出た言葉は取り戻せない。
「…もういい、忘れてくれ。帰る」
密が本当に帰ろうとした時、類がはっと顔を上げた。
今、ここでどちら側に踏み出すか決めなければいけない。
もう一度視線が合い、躊躇いながらゆっくりと紡ぎ出される言葉。
「あ、りがとう…」
辛うじて聞こえる声。
その後、ゆっくりと動く唇を密はじっと見た。
ぼ
く
も
――ぼくも。
思ってもいなかった形で返された、音にならない言葉が頭の中で意味を結ぶ。
心臓の音がやけにうるさい。脈拍に合わせて身体の奥底がぱちぱちと弾ける様な力で満たされてゆく。
何か言おうとして微かに唇を動かした類の言葉を待たず、密は間を詰めて肩を掴んだ。突然の行動に類が目を丸くすると、信じられないという表情で密が見下ろしていた。
さっきまでぎくしゃくしていた空気は一瞬で変わり、今まで見えなかった気持ちが一気に花開いて、その存在を主張するかの様な匂いに包まれていた。
泣きそうな顔で類は言葉を続けた。
「男だよ?」
――そんなこと知っている。
「うん」
類の肩に添えられていた密の手がゆっくりと背中に回り、肩甲骨を撫でながら、まだ躊躇っている類の身体を抱き寄せてゆく。
緊張したまま、類は密の腕の中にすっぽりと包みこまれた。
密の表情は見えなかったけれど、ただ背中に触れる掌の温かさが伝わってきた。肩に頬を預けて呆然と見慣れた壁を見ていると密が言った。
「類、大丈夫なのか…?」
ゆっくりと身体を離し見つめ合う。
「何が?」
「こういう…部屋とか、他の人がいない所で人に近づかれるの苦手じゃねえの?野尻の事もあったし、怖がらせてるんじゃないかって…」
類の身体からふっと力が抜けた。
――期待しちゃだめだ、うまくいきっこない。相手はノンケで、あとで痛い目を見るのは自分だ。
だから、『僕も』と声に出すことはできなかった。なのに、こんな風に優しく気遣われるともしかしたら、と甘い考えが首をもたげてくる。
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