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第29話
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「…男相手でもほんとに勃つんだな」
帰り道、周りに誰もいないのをいい事に密は小さく独り言ちた。
他人 の家のトイレを借りて処理するのは流石に気が引けたので、ある程度興奮がおさまるまで待って家から出た。
とはいえ、まだ欲望は身体の奥でくすぶっている。
――男同士って、ケツの穴にいれるんだっけ…。自分が誰かの穴に入れるなんて想像できないし、自分のに突っ込まれるなんてありえない。
「あーあ、くっそわっかんねーな!」
密はこれまで女の子としか付き合ったことがなかった。ふわふわした服を着て、自分より高い声で小鳥のようによく話をしていた彼女達。自分とは全く違う相手を知るのはそれなりに楽しかったし、身体を繋げるもの当たり前の行為として疑問をいだいたこともなかった。
でも、今好きになっている相手は男だ。
いつからそうなのだろう、類以外の男でも好きになったのだろうかと想像してみたけれど、何を考えても途中から類の事にすり替わってしまうため思考が定まらない。
帰り道ですれ違った散歩中の犬も、電車の中でみた遊びに出掛ける大人たちも、青白いLEDの街灯と無駄に明るいコンビニの照明も、いつもと同じなのにどこかキラキラと眩しく見えた。
――男子校だから男が好きになったのかな。二年間、同級生の裸を見たってそんな気持ちになったことはなかったのに。それとも、類だからなのか。
百八十五センチの長身で、地面から数センチ浮いたような感覚のまま歩く道。
明日類は学校に来るかな、と考えていた。
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