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第30話
類は、また以前のように学校に来るようになった。それが自分のためのような気がして密は嬉しかった。
だからといって休み時間ずっと一緒にいる訳にもいかない。校内で話をするにも周りが気になってしまう。
お互いの気持ちは確認したけれど、何かの拍子に身体が触れただけで緊張するような状態だった。
帰り道でも繋ぐことのできない手を見ていると、密は中学校の時の恋愛を思い出した。自意識過剰で人前ではつっけんどな会話しかできなかった、幼くもどかしかった恋。
中三で告白されて付き合い、高校に入ってすぐに別れてしまった年下の彼女。高校に入ってから紹介されて付き合った他校生。
どの子も付き合い出すと『密は背が高い癖に子どもっぽい、可愛い弟みたい』と言う癖に、甘えてきたり、リードしてほしいという。何を期待されているのか不思議だった。
二人きりになっても、類は甘えない。
誰にも邪魔されずに会えるのは、予備校の授業のない休日くらいだった。
類の部屋で二人ベッドに寝転がってじゃれ合っている時、女の子と付き合ってた時の癖で髪に鼻先を埋めてスンスン、と鼻を鳴らして嗅いだ。
女の子とは違う控えめなシャンプーの匂いに、そんな事をした自分がなぜか気恥ずかしくなって言った。
「お、男くせぇ」
わざと大袈裟に言って身体を離したけれど、類はなにも反応しなかった。後ろを向いたまま黙っている類に再び腕を回して抱きつき、うなじに鼻先を埋めると、ようやく声がした。
「僕男だから 」
類は上半身を起こして絡みつく身体を押しのけ、まだじゃれ足りないといった表情で仰向けに隣に寝転んでいる密を見下ろした。
何も言わず、茶色い目が不安そうに細められる。
冗談だと分かっていても傷つけることがある。密も起き上がり、すっと伸びた類の首に腕を回して引き寄せた。
肩に乗せられた頭の重さと温かさが心地いい。
鼻先で類の耳を擽って、呟いた。
「知ってる、類の匂いだ」
そのまま生え際や首元に唇を当てながら犬のようにふんふんと嗅いでいると、くすぐったさからついに類が笑い出した。
「やめ!変態か」
「知らなかった?」
そうやって少しずつ、自分の腕の中にいる相手が男であることを確認していた。
好奇心から見た、ネットに溢れるゲイビデオは、途中で気持ちが萎えて止めてしまっていた。
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