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第33話

 体格差があるせいで、類が必死で押し返しても密の身体に押し倒されてしまう。 背中をぶつけないように片腕を類の背中に回してはいたが、余裕のない抱擁と、相手に深く触れたいという衝動がぶつかり合い、密は自分を止めることができなかった。  腕を突っぱねようとする類の上にぴったりと重なる密の身体から、早くなった鼓動が服越しに伝わってくる。  類の首筋に顔を埋めていた密は、何かに耐えるように握っていた拳を開き、意を決して類の髪に指を通しながらキスをした。  先の見えない事が怖い、寂しい、不安だ。  言葉にすれば簡単な気持ちが、周りを見えなくしてゆく。 「やめ…、おい。急にな…んっ」  腕の中でもがいて顔を左右に振る類を追い、密は首筋に、そして耳元にキスを繰り返してゆく。触れた先から、じんわりと痺れるような歓喜が身体に広がる。  ひたすら愛しいという気持ちに突き動かされていた。 「何もない、けど。  もうそろそろ、もうこの位なら、そしてもしかしたら自分なら類は大丈夫なのではないか、という根拠のない考えで、これまで抑え込んでいた気持ちを緩めた事を正当化しようとしていた。 「ひ…密、待てってば!ね、ちょっと……っ!止めて」  声は小さいながらもはっきりとした拒絶の言葉が密の動きを止めるまでに、少し時間がかかった。  はぁ…、と息を吐いて止まった密は、肘をついて身体を浮かせ、胸元を押し離そうとしている類の手を取って強く握った。  浅い呼吸を繰り返す類の手は、冷たく汗ばんでいた。 「…ごめん、類、ごめん。許して、大丈夫?」  目を閉じて何かに祈るように眉根を寄せる類が小さく数回頷く。  震える唇が開き、自分に言い聞かせるかのようにつぶやいた。 「大丈夫、大丈夫だから…」  いつもの密らしくない。  自分を女の子のように扱っては、それに気づいて慌てたり、ごく普通の男の友人のように振る舞っていたのに、今日はまるでぐずって甘えているかのようだ。 「…なんで、急に…どうしたの?」  自分の中の苛立ちや不安がなんなのか、それを言葉にできればどんなに楽なのだろう。  密は何も言えなかった。  沈黙が部屋の空気を重たくする。  規則正しい心臓の音だけが聞こえてきそうな静寂の中、類がふと何かに反応して顔を動かした。  金属が触れあう音に続いて鍵の開く音、少し間をあけて大人の女の声。 「類、いるの?誰か来てるの?」 「かあさんだ」

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