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第34話

 近づいてくる神経質そうな足音に、二人共はっとして顔を見合わせた。一気に頭が醒めてゆく。急いで身体を起こし、類の上からどいた密は床に座り直した。類が立ち上がり、扉に向かおうとした途端、扉が短くノックされて開いた。  スーツ姿の類の母親が、緊張した面持ちで部屋を見渡し、床に座っていた密を睨んだ。 気まずい空気が流れた。  密も類も後ろめたい事をしていたせいで、その強い視線にすぐに反応できなかった。 ――それでも、友達のうちでこんなに険しい顔で睨まれることなんて滅多にない。 「こんにちは。高校の同じクラスの有本です。お邪魔してます」  正座してどうにか挨拶をした密に、類の母はようやく警戒を解いた。  それでもまだ厳しい表情で密を一瞥すると「こんにちは、類の友達ね。ちょっとごめんなさい、類…」と類を呼んだ。扉を閉め、居間に向かってゆく気配がした。  何を話しているのかよく聞こえないけれど、かたい声色の合間に「うん、でも…」と類の相槌が挟まれる。  類の部屋で暫く待っていた密は、荷物を持って立ち上がり扉を開けた。隔てていたものがなくなり、くぐもっていた声がすっと耳に届くようになったけれど、できるだけ会話を聞かないように声を張り上げた。 「すいません、お邪魔しました。俺、帰ります」  ピタッと話し声が止み類が奥から出て来た。玄関で靴を履く密の腕にそっと触れた手が冷たい。  微かに寄せられた眉根と、口角を上げただけの笑顔が、類の母が密を歓迎していない事を語っていた。 「ごめん、本当は来ちゃいけなかった?」  留守の時に子供の来客を嫌う友人の家もあることを密は知っていた。  囁くように聞く密に、類は首を左右に振って小さな声で答えた。 「違う、そういう事じゃないんだ。ちゃんと話す…、また学校で」

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