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第40話

 熱い唇の間で交わされる互いの舌が、相手を求め合っていた。 歯裏から咥内を探りはじめる相手を遮るようにもう一方が絡むと、粘膜の縺れあう感覚が下半 身に重い痺れを蓄積させてゆく。  溢れる唾液で口の周りを濡らし、熱いうねりを感じていると、気持ちの昂ぶりが分水嶺を超えた。  唇が離れる。  部屋の照明で逆光になっている顔を見上げると、類が震える指でシャツのボタンを外していた。  それは、これまでしたどんな想像よりも密を性的に興奮させるものだった。  俯いて手許を見ている類の、カーブを描く顎のラインが好きだ。密は腕を伸ばして類の頬に手を沿えた。 「類、いいの?」  視線が上がり目が合った。初めて見た時からずっと心を捕え続けてきた瞳が真直ぐに密を見つめて頷いた。  好きな気持ちは、類が男でも変わらない。  そんな単純な事がすとんと腹に落ちてきて、身体と気持ちが繋がったような気がした。  上半身を起こして、密も制服を脱いでゆく。  服を全て脱ぎ去り、黙ったままベッドに腰掛けた。  点けっぱなしだった照明の下で、細身ながら筋肉の付いた類と、いつの間にかクラスの誰よりも成長していた身体を持て余す密の裸身が並ぶ。  どちらからともなく目が合わせると、密が大きく一呼吸し、悲鳴を上げるように口を開いて息を吐き出し、頭を左右に振った後俯いて両手で顔を覆った。  いざ裸になって、これからする事を考えて怖くなった?と、類が不安になると、密は背を向けた。 「だめだ、あらたまると恥ずかしすぎる…」  そう言うと、ローテーブルにあるリモコンを掴んで照明を落とし、驚いている類の顔を見ながらそのまま勢いよく抱きついてベッドに倒れ込んだ。 「わ!」  二人の体重分沈み込んだベッドの上で、顎先から耳まで、フェイスラインを唇で辿ってゆく。微かな恐怖感と、甘い感触に引きずり出される欲望に小さく声を出しながら、類は身体の力を抜いた。 ****  それでも、類の身体は密を受け入れる事はできなかった。  触れているのが密だと分かっていても、優しく触れる手の下で身体は硬直してしまう。 「もう止めよう」と繰り返す密に、類は何度も首を横に振った。  宥めようとする密の頭を抱き寄せてキスをし、続けようとした。 痛みとこわばりの中、類は自分の身体を開きたかった。そうすれば、密の不安も薄らぐのではないか。でも何より変えたいのは、踏ん切りの付かない自分自身だとどこかで気づいていた。  気持ちだけが先走り、手汗をかくほど緊張しながらも受け入れようとする。そんな類を起こし、密は背後から抱きしめた。お互いの温もりが伝わって、同じ温度になろうとする。  例えこれが最後になったとしても、背中に当たっている密の身体と、優しく撫でる手の感触だけはずっと忘れないでおこうと思った。

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