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正面の白く大きな玄関ドアは広く開け放たれていた。
クリーム色の石階段を三段上がってポーチに立ち、恐る恐る中を覗く。
吹き抜けから明るい光が降り注いでいた。奥に見えるメインダイニングとそれに続くファミリールーム、左手の来客用らしきリビングルームと幅の広い階段がカーブを描いて上階に続く中央の玄関ホールまでが、開かれた扉とともに一体となって目の前に広がった。
あまりにもゆったりとした空間に、たった今玄関ドアをくぐったばかりなのに、まるで屋外に踏み出したような開放感を覚える。
なんて綺麗な家なのだろう。
晴の心はふわりと軽く浮き立った。
人気 のない室内を、窓からの風が静かに通り抜けてゆく。家に風を通しているのだろうと考えた。木造の洋館が、五月の風を含んで気持ちよさそうに息をしているように感じた。
少し待ってみたが人が出てくる気配がない。晴はそっと家の奥に向かって呼びかけてみた。
「……すみません」
返事がない。
どこからともなく赤い花弁が運ばれてきて、くるりと踊るように舞ってみせる。
もう一度、今度は少し声を大きくして呼びかけてみる。
「すみません……。どなたか、いらっしゃいませんか……?」
コツ、と、かすかに、人の足音を聞いた気がした。
吹き抜けになった上の階を見上げると、手摺の向こう側に光を背にした逆光のシルエットがあることに気づいた。
「あの……ぼ……」
晴が名乗る前に、白い光の中の影がひどくぶっきらぼうに言葉を発した。
「何をしている。二階だ」
「あ、はい」
少しかすれた声で答え、急いで大きな階段に向かい、美しい弧を描くそれを昇っていった。木製の手すりの優美な彫刻に心を惹かれる。
上の階まで上がりきろうかという時、天窓から降り注ぐ日差しを背にした長身の男性の姿が正面に見えたが、天井から落ちる光が金色の装飾に反射して、きらきらと周囲を跳ねまわり、あたり一面がまばゆく晴は目を細める。
眩しさに慣れるに従い、男の姿がはっきりと見えてくる。
ぱしん、と晴の中で何かが弾けた。
その瞬間、透明な卵の殻を破って新しい感情が生まれたような気がした。
(誰……?)
光の中に現れた端整な美貌に視線を奪われる。心臓がドキドキと騒ぎ始めていた。
すらりと引き締まった長身から、涼やかに整った顔が晴を見下ろしていた。
自然に整えられた黒髪の下の秀でた額、知性を湛えた漆黒の双眸と高くまっすぐな鼻梁。冷たいほど完璧なバランスを保ったシンメトリーな配置の中で、薄く形のいい唇だけがかすかに甘く、何かを問いかけるように緩やかなカーブを描き始める。
「なるほど……」
息をのんで立ち尽くす晴を眺め、男は満足そうに笑みを浮かべた。
「なるほどな。確かに、思ったより、いい……」
何が思ったよりいいのか、意味がのみ込めないまま、どこか艶めいた雰囲気にかすかな疑問を覚えた。
戸惑う晴に背を向け、男は広いホールを進み始めた。美しい装飾が施されたドアに手をかけ、振り向きながら問う。
「どうした。すぐに始めていいのだろう?」
すぐに?
面接のことだ、と思い至った晴は、慌てて首を大きく縦に振った。
「は、はい! よろしくお願いします……!」
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