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仇
ぴちゃりと唾液が混ざりあう音が、俺の耳を犯す。
舌が口蓋を舐め、流し込まれた唾液が喉奥へと流れ込む。
「ん……」
俺は自分から彼の唾液を喉を鳴らして飲み込み、舌を絡ませあった。
唇が離れたとき、俺は大きく息を吐いた。こんな深いキスをしたのは初めてで、頭がぼうっとする。
満足げな夏目の顔が、すぐそこにある。
「蕩けた顔をしてるね、朱里」
言いながら、彼は俺の頬を撫でた。
それだけで、俺は声を漏らす。
「あ、ん……」
「朱里、力抜いて?」
彼は俺の身体を優しく撫でたあと、再び後ろのすぼみに触れた。
ローションの絡まった指が、ゆっくりと固く閉じた穴を押し広げていく。
第一関節まで入れて、夏目は指をゆっくりと引き抜いた。
ローションを俺の尻にかけ、また指を差し入れる。
ゆっくりと内壁をなで回し、また引き抜く。
入れられるたびに俺は喘ぎ、抜かれるたびに身体を震わせた。
少しずつ指は深く入り込んでいく。
不安で縮こまってしまった俺のモノは、再び固さを増していた。
指があるところに触れると、今まで感じたことのない快楽が腰から脳へと突き抜けていく。
「ああ!」
腰を跳ねさせると、夏目は嬉しそうに言った。
「ここが、君のいいところなんだね、朱里」
それから夏目はやたらとそこを刺激し、俺は身体をくねらせて声をあげ続けた。
「あ……く、ん……飛衣、だめ、そこ、おかしくなる」
首を振り抗議するが、夏目は手を止めなかった。
指が2本に増やされ、中でバラバラに蠢く。
慣れない異物感に、這い上がってくる快感が混ざり合う。
吐く息は熱く、出る声は上ずった甘い声ばかりだった。
「可愛いね、朱里。
俺の指、美味しそうに咥えこんでるよ」
「はふ……ん……」
可愛いとか言われても、正直嬉しくないが、俺は何も言うことができず首をただ横に振るばかりだった。
時折ローションを足しながら、夏目の指が俺の中を犯していく。
中を拡げ、内壁を撫でまわし、深く入り込んでいく。
いいところへの刺激もしつこくされ、俺はイきたいと繰り返し口にした。
「もう、やだ……いき、たい……」
「まだここ、2本しか入らないから……俺の、入らないよ?」
……俺の、入らない?
快楽にとけている思考では、その意味を理解するのは少し時間がかかった。
「アルファって、一般男性よりも大きいからね。
ベータである君じゃあ、入るようになるにはよく慣らさないと」
ああ、そういうことか。
わずかに残る理性が、男のモノを受け入れる、ということを拒否しだす。
指だけでも異物感がすごいのに、彼のモノを受け入れたら……?
けれど、いいところ、というのを撫でられると気持ちいいと思うのも事実だった。
あそこを突かれたらどうなるのだろう?
「今俺の指を締め付けたのは何? 期待してるの?」
笑いを含んだ声に、俺の思考はさえぎられる。
期待、しているのだろうか?
ただ俺は、早くイきたい。
けれど、彼が言っていることから察するに、後ろの穴に彼のモノを入れるまでイかせてはくれないだろう。
そんなの嫌だ。
おかしくなる。
「と、い……もう、むり……へんに、なるから……」
涙目で訴えると、夏目が指をゆっくりと引き抜いた。
そして、彼はベッドから降りると、着ているワイシャツに手をかけた。
夏目が服を脱ぐさまを、俺はぼんやりと見つめた。
開かれたままのカーテンから差し込まれる日の光の中で、彼が裸になっていく。
彼の身体の中心を見て、おれは思わず息をのんだ。
夏目が言った通り、反り返った彼のモノは確かに大きかった。
俺のモノとは比べ物にならないくらいに。
あんなものが、この狭いところに入るの?
マジで?
心の中に恐怖が広がっていく。
そんな俺に、裸の夏目は覆いかぶさり、唇を重ねた。
俺の不安を取り除くように、優しく、触れるだけのキスを繰り返していく。
「と、い……」
そんなキスじゃ物足りなくなっている俺は、自分から彼の首に腕を絡め、もっと深いキスをねだる。
そして、足の間にある彼の太ももに、たち上がっている俺のモノを擦り付けた。
甘い香りと、絡まりあう舌が快楽を生んでいく。
もう我慢なんてできない。
キスのあと、俺は彼に訴えた。
「お願い、だから……」
そんな俺の願いに、彼はくすりと笑った。
「いい顔だね、朱里。
そんなにここに欲しいの?」
言いながら、彼は先端を俺の尻の窄みに擦り付ける。
そのたびに、ひくひくと穴がひくついたのが自分でもわかった。
欲しい。
中にいれて、そして、早くイきたい。
俺がこくこくと頷くと、夏目は俺の後ろの穴に先端を押し付け、ゆっくりと挿入した。
亀頭が入り、俺は思わず、声を上げる。
「ひっ……」
腹から這い上がる異物感に、俺は思わず腰をひいて逃げようとしてしまう。
けれど、夏目は俺の足を抱き上げたまま、ゆっくりと中に入って来た。
先端が、いいところに当たり、俺はびくん、と身体を震わせた。
やばい、気持ちいい。
それを見逃さなかった夏目は、ゆっくりと出し入れを始めた。
「あ、あ……そこ……うあぁ……」
夏目にしがみ付き、快楽だけを拾おうと中を意識する。
「全部はやっぱり辛いみたいだから……ここ、いっぱいついてあげるよ」
「え、あ……な、とい……とい……」
懸命に彼の名を呼び、自分から腰を揺らす。
「中、熱くて、締め付けがすごい……」
すこし余裕のない声で夏目は言い、徐々に腰の動きを早めていった。
その動きに合わせて、俺は喘ぎ声を漏らす。
「んん……あ、あ……あ……」
そこを突かれるたびに、視界が白に染まっていく。
腰から這い上がる熱が、快楽へと変わり脳へと突き抜けていく。
「ひう……なつ……とい……あう……」
彼は挿入したまま、腰の動きを止めおもむろに俺のモノを手に掴み扱き始めた。
「ひあぁ……! とい……いく、いく……いくから……!」
童貞の俺には、他人に触られること自体興奮材料としては充分で。
俺はあっけなく、夏目の手の中に射精してしまった。
「あぁ……」
「ははは……なか、すごい締め付け」
言いながら、彼は手に絡まった俺の精液を舐めとり、まだ達した余韻に浸る俺の身体を揺さぶり始めた。
「ひぅ……おかしく、なる……だめ……あぁ!」
いいところを突かれまくり、俺のモノは再びたちあがりはじめる。
やばい。気持ちいい。
アルファである夏目が、ベータの俺を抱くとか……
そんな背徳的とも思える状況が、さらに俺を煽り立てていく。
「朱里。
中に出すから……ね?」
優しく彼はそう言うと、びくんと身体を震わせて、動きを止めた。
「え……あぁ……」
腹の中が熱いもので満たされていく。
あぁ、中に出された。
夏目の精液が、中で……
俺はオメガではないし、妊娠の心配なんてないのだが、なのに俺はそこはかとない不安に襲われる。
いいのだろうか。
アルファと関係を持って。
俺とヤッたところで何も生み出さないのに。
オメガみたいに妊娠できるわけではないのに。
生まれた不安が、心の中にじわじわと広がっていく。
俺は夏目にしがみ付き、呟いた。
「なんで、俺なんか……」
「朱里。
君が、俺の腕が届くところに入って来たから……かな」
そう言って、夏目は俺の唇に口づけた。
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