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番外編 囚われる―飛衣視点
ベータなんてどこがいいと、ときおり会う同じアルファに言われる。
どうやら俺が、アルファもベータもかまわず遊んでいる話を耳にしての発言らしい。
それに嘘はない。
どうせ、大学生になればオメガと番わされるのだ。
家の為。
国の為。
それは決定事項だ。
父親と母親もそうだった。
父は、21で結婚した。母は18だったと聞いた。そしてすぐに俺を妊娠し出産した。
どうせ決められているのなら、今を自由に生きようと思うのは普通のことだろう。
幼なじみの桜葉のように、オメガに惑わされ振り回される人生を本人が選ぶならそれもいいだろうが。
俺はまっぴらごめんである。
発情したオメガを抱いたことはあるが、うなじを噛みたいと思ったことはない。
何人抱いたかなんて、とっくに数えるのはやめたし、何もしなくてもオメガも、ベータも、アルファさえも寄ってくるので相手に困ったことなどなかった。
それなのに。
俺は彼らに惑わされた。
オメガを装うアルファと、眠くなる副作用がある予知能力者のベータ。
ふたりは俺に一切の興味を示さず、それどころか俺を拒絶した。
俺を拒絶する存在なんて今まで会ったことなかった。
あのふたりは俺を拒む。
拒まれたら欲しくなる。
ひとりは手に入った。もうひとりはどうしようか?
手に入れたベータは、今日も俺の腕の中にいる。
「うあ……だめ……いい……」
うつ伏せになって、俺に後ろから貫かれている彼は、相反する言葉を口にして、ぶるりと身体を震わせる。
「この奥、こじ開けられるの好きだよね、朱里」
「はぅ……あ……もっと、突いて……」
しわの寄ったシーツを握りしめ、朱里は言う。
「可愛い朱里」
彼の望む通り、ぐいと奥を突き、一度ひいてまた突き立てる。
そのたびに朱里は喘ぎ、身体を震わせる。
眼前に、彼のうなじが見える。
噛みたい。
発情したオメガにもこんな想い、抱いたことなどないのに。
噛みたい。
うなじを噛んで、番にしたい。
彼はベータだ。噛んでも無意味だ。
俺は彼の背中に覆いかぶさり、彼のうなじを舐める。
「はぅ……」
その瞬間、ぎゅっと、中がしまる。
ぺろぺろとうなじを舐めまわした後、俺はがぶりとそこに噛み付いた。
「い、あぁ!」
悲鳴にも近い声を上げる朱里。
それでもかまわず、俺はそこを噛み続けた。
「イタ……い、飛衣、俺は、オメガじゃ……あぁ!」
そんなことわかってる。
朱里はベータだ。
でなければ、俺はこんなこと思わない。
今は腕の中にいても、いずれ彼を手放さなければならなくなる。
自分の感情を殺して、オメガと番わないといけない?
朱里を手放して?
「俺は、番に……なれな……うあぁ!」
俺はうなじから口を離し、歯形がはっきりついたのを確認して、激しく腰を動かした。
朱里の中はうねり、収縮を繰り返している。
「気持ちよさそうだね、朱里」
「きもち、いい!」
「朱里は俺のものだよ」
「あう……あぁ! 飛衣、のもの……俺……あぁ!」
俺は、奥をこじ開け精液を流し込んだ。
「はぁ……」
恍惚とした声を漏らし、朱里はぶるりと身体を震わせる。
受け入れきれない精液が、つながった部分から漏れ出てくる。
俺は、放出することなく達した朱里の身体をつながったまま回転させ、今度は正常位で抱いた。
俺のフェロモンで発情に近い状態にあるとはいえ、彼はオメガじゃない。
欲望に溺れきれず、どこか苦しげな表情を見せる。
これも、オメガにはない反応だ。
可愛い朱里。自分から腰を揺らし、キスが欲しいと舌を出してくる。
唇を重ねて唾液を流し込めば、彼は嬉しそうに飲み込んでいく。
唇が離れたとき、彼はうっとりと呟く。
「飛衣……好き、飛衣……」
普段もこれだけ素直なら嬉しいのに、彼は決してそんなこと言わないし、自分から俺に近づいてくることもしない。
好きになってはいけないと、彼は思っているのだろうか。
いつか捨てられると。
どこか苦しげ表情はそれを表しているのだろう。
それもまた、俺の心を揺れ動かす。
溺れていく。
ただのベータに、俺は囚われていく。
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