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首筋に突きつけられているのは刃物だ。ひんやりと冷気を纏ったそれは月光を浴び、妖しく光る。
恐ろしく俊敏な生き物はどうやら人間ではなさそうだ。
しかし、この屋敷には強力な結界が張ってある。悪しき強者が屋敷に立ち入ることがないよう、常人の目には見えぬ大きな網で囲ってある。――にもかかわらず、『それ』はたしかにそこにいて、刃を突きつけている。
ともすれば、考えられることはただひとつ。
『それ』が持ち得る力が網目を潜れるほど、ごくごく微量であるということだ。
霊力というものは強ければ強いほど、大きく強固になる。よってその者たちを排除しようとするならば、結界も自ずとより大きな網目状となり、入ってこられない。その逆に、弱者は柔軟で小さな霊力を持っているため、大きな網目は簡単に通り抜けることが可能なのだ。
「物の怪 か?」
弓月は目をつむり、弧を描いた唇を動かせば、『それ』は地獄の底から震えるような低い唸り声を上げた。
プロローグ・完
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