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 なんでも魂の香りは伴侶にのみ嗅ぎ分けることができる特殊なもので、独特の香りを放つのだと、真尋の祖母、宮内(くない)が言っていた。  けれど今、真尋はそれどころではない。生きるか死ぬかの瀬戸際にいる。  ぐる、ぐる、ぐるる。  また、真尋の腹が鳴る。 「腹、減ったな~」  人間界に来てからまだ数時間しか経っていないというのに、真尋の腹はすでに限界に達している。  ここで厄介なのは妖狐の腹がブラックホール並みだということだ。人間の一日に摂取する食事の量は妖狐の一食分に相当する。つまりは真尋は今日、人間で言うところの三日間、飯を食っていないということになるのだった。  真尋は自分の腹を擦りながら、なんとか今の状況から逃れる術はないかと辺りを見回す。  けれどここは裏路地で、民家もない。当然食い物が落ちているわけもない。  幾度となく足がのめる。それでもなんとかおぼつかない足取りで歩いていると、何やら美味そうな匂いが漂ってきた。  いったいこの美味しそうな匂いは何だろうか。  鼻孔を膨らませてクンクンと匂いを嗅げば、何やら嗅いだことのない甘い匂いがする。  匂いに誘われるまま歩いて行けば、今日人間界で目にした中で一番立派な門構えをした巨大な屋敷に辿り着いた。  この屋敷に果たして人間は何人住んでいるのだろう。  なにせここは人間の世界で自分が生まれ育った里ではない。細心の注意が必要だ。真尋はそう自分に言い聞かせるものの、けれど今は腹が空いている。警戒心も何もあったものではない。  それに真尋は妖狐族の中では落ちこぼれではあるものの、並みの人間よりはずっと力も妖力もあるのはたしかだった。

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