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 男はとても冷静だった。  もしかすると真尋に敵意がないことを男は勘づいているのかもしれない。  真尋は焦った。  実を言うと、真尋はとても臆病者だ。外見は目つきが悪く、乱暴者のように見えるが、その実は血を見るのも他人を傷つけるのも苦手だったりする。だから暴力なんて生まれてこの方振るったことがない。  そしてそれは今も同じだ。相手がたとえ(たれ)であろうと他人に刃物を突きつけるような真似をしたくないと思っている。けれども今は背に腹は代えられない。  空腹を訴える腹は今にも背中と引っ付きそうだ。自分が生きるためだ。男の喉元に刃を突きつけることはやむを得ない。  それでも余計な殺生を嫌う真尋は、なんとかしてこの男に傷を負わすことなく食い物に有り付く方法はないだろうかと思案する。  しかし男は真尋の気持ちを知ってか知らずか、それ以上何も話そうとはしない。  これでは食欲を満たすことができない。

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