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◇泥棒の成れの果て。
(三)
家人も家人なら主も主である。夜間に忍び込み、凶器を突きつけた自分が言えた義理ではないが、彼らは少々楽観的やすぎないか。真尋 は目の前にいる二人を交互に見やる。
主人自らの手によって持ち上げられた器は月光に照らされたおかげで中にあるものが何なのかはすぐに判った。器の中にあるのは今日の満ちた月のように真白で丸い饅頭 だ。
ああ、なんと美味そうなのだろう。
「ひ~、ふ~、み~……」
ダメだ。数え切れない。器には山盛りで、けっして十分とは言えないが、多少は妖狐の腹を満たせるだけの量はありそうだ。
「――――」
しかしこれはいったいどうしたことか。
二人は別段、刃物の存在を気にしている様子はない。――にも関わらず、あまりにもこちらの要望を呑んでいる。
まさかこの中に毒が入っているのではないか。真尋は差し出された饅頭に鼻を近づけ、妖狐族が他の種族に比べて抜きん出ている利きの良い鼻を使って毒の匂いをたしかめてみる。
ところが匂いを嗅いでも葛粉の匂いしかしない。
取り敢えず、毒は入っていないようだ。
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