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 自尊心は今にもガラガラと音を立てて砕け散りそうだ。  それでも真尋はどうにか食事に有り付きたくて、食べ物を寄越せと催促した腹の音に気づかない振りをする。  鋭い切っ先を男の喉元に突きつけたままでいると、薄い唇が動いた。 「腹が、減っているのか?」 「そうだ。お前、何か持ってるだろ? さっさと寄越せ!」  やはり腹の音を聞かれていたのだと、犯してしまった自分の失態に奥歯を噛み締める。  しかしここまできたのだ。今さら後には引けない。こうなったらやけっぱちだ。  真尋は襲い来る羞恥を隠すため、怒鳴り散らす。  それでも男はやはり臆することはない。暫くの沈黙の後、ややあって閉ざしていた眼を開けた。  黒の眼をしているだろう男の目は、けれど月光を浴びているからか青色に輝いて見える。  その目は真尋を馬鹿にしているふうでもなく、怯えてもいなかった。

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