14 / 48
6
自尊心は今にもガラガラと音を立てて砕け散りそうだ。
それでも真尋はどうにか食事に有り付きたくて、食べ物を寄越せと催促した腹の音に気づかない振りをする。
鋭い切っ先を男の喉元に突きつけたままでいると、薄い唇が動いた。
「腹が、減っているのか?」
「そうだ。お前、何か持ってるだろ? さっさと寄越せ!」
やはり腹の音を聞かれていたのだと、犯してしまった自分の失態に奥歯を噛み締める。
しかしここまできたのだ。今さら後には引けない。こうなったらやけっぱちだ。
真尋は襲い来る羞恥を隠すため、怒鳴り散らす。
それでも男はやはり臆することはない。暫くの沈黙の後、ややあって閉ざしていた眼を開けた。
黒の眼をしているだろう男の目は、けれど月光を浴びているからか青色に輝いて見える。
その目は真尋を馬鹿にしているふうでもなく、怯えてもいなかった。
ともだちにシェアしよう!