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――いやしかし、自分にはこの男という人質がいる。いくら落ちこぼれとはいえ、自分は妖狐だ。人間風情に何ができるというのか。もし仮に、主人の危機に女が誰かしらの助けを呼んで参ろうとも、しっかり対処はできる。
真尋は臆病になる心にそう言い聞かせ、内心動揺しながらも男の喉元に刃物を固定する。自分が動揺していることをこの男に知られてはならない。手が震えないよう、細心の注意を払いながら――。
間もなくして、女が戻ってきた。そこに人影も気配もない。どうやらこの女は主人の言いつけを守ったらしい。何やら大きめの器を両手に持っている。
真尋と女の目が合う。
しかし女からは怯えるような顔色も素振りもない。まるで見知った客がこの屋敷にやって来たかのように、ひとつ真尋に会釈ひとつすると、落ち着いた様子で男の膝元に器を置いた。
これはいったいどういったわけか。女は真尋が主人に突きつけられている刃を気にも留めない。いたって平静そのものだった。
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