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まさか今度こそ誰ぞに助けを呼ぶ気ではないか。
真尋が男の様子を窺 っていると……。
「妖狐は鮭が好物と聞く。焼いて来よう」
得てして男は口元にうっすらと笑みを浮かべ、そう言った。
さて、真尋が鮭を食べたのはいったい何時の頃だっただろうか。
里を出る前に祖父がご馳走してくれたきりだ。
などと悠長に考えている場合ではない。果たして自分は男に妖狐だと自ら名乗っただろうか。
いや、答えは否だ。
いくら空腹とは言え、もちろん会って間もない人間に自分が何者かを打ち明けるヘマなぞするわけがない。
敵か味方かもわからない相手に、わざわざ自ら自分の正体を明かすことは自殺行為だ。自分の正体を軽々と明かすような愚かな真似はしない。
ということはただひとつ。男は真尋の正体を簡単に見抜いたのだ。
真尋の背筋が凍る。
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