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「…………」  はてさて腹は八分目ほどか。すっかり空腹も癒えた真尋は仰け反り、ややぷっくりと膨れた腹をひと撫でした。 「邪魔、したなっ」  用は済んだ。  当初の目的を果たせた真尋は礼も言わずに立ち上がる。 「またおいで。今度はもう少し多めに食い物を用意しておこう」  はてさて、男は礼のひとつも寄越さない真尋に腹を立てる素振りすらない。依然としてにっこりと微笑み、そう口にした。 「――――」  今さらだが、真尋はこの屋敷の主人とは別段仲が良いわけでも、顔見知りでもない。真尋は彼の屋敷に押し入った泥棒である。しかしながら男は微笑を漏らし、「またおいで」とそう言う。  あろうことか凶器を突きつけ命を脅かした泥棒に、「また来い」という間の抜けた人間が果たしてどれほどいるだろう。しかも、である。真尋は妖狐であやかしだ。人間とは違う種族であるし、この世の者でもない。その真尋に愛想を振りまくなどもってのほかだ。人が好いにも程がある。

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