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『お前は間抜けか?』
真尋は言い返そうと振り向くが、しかし男の笑みがあまりにも綺麗だった。
夜気が男の周囲をふんわりと包み込むかのように薄ぼんやりと光っているように見える。その姿があまりにも美しく、不覚にも胸が大きく高鳴ってしまった。
「っつ!!」
悪態のひとつでもついてやることさえできない。
「…………」
なんだろう、この言い知れない敗北感は……。
真尋は踵 を返し、下唇を噛みしめた。そうして彼は屋敷を後にしたのだった。
おかしな人間に出逢ったその夜。真尋は気兼ねなく本来の姿のままでいられる場所を自慢の鼻で嗅ぎ当てた。
そこはちょっとした小高い丘だ。人間の匂いはしない。どうやらこの場所はあまり知られていないらしい。足下には青々と茂ったたくさんの草が絨毯 のように生えている。
真尋は以後、この場を自分の住処とすることに決めて、心地好い草の上に寝転んだ。
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