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◇泥棒は常連さん?
(一)
真尋 の、がつがつと豪快に食す音だけが静かな夜気に溶け込む。
「ところで、君がくれた白のプリムラの花言葉は知っている?」
「花言葉?」
男は、真尋が目の前に広げられた馳走をいくらか食した後、問うた。
しかし真尋は生まれてこの方、食い意地ばかり。植物にはかなり無頓着で、興味さえも持たなかった。訊ねられても答えることができない。
口の中いっぱいに鮭を頬張り、もぐもぐと口を動かしながらも首をひねる。
「いや、知らないならいいんだ。……そうか、無自覚なのか……」
男の薄い唇が孤を描く。
「なんだよっ! 気に入らねぇなら返せ!」
何やら人を見下すような微笑だ。
人がせっかく昨夜の礼にと持ってきたものを馬鹿にされてはたまらない。真尋は怒りをあらわにした。花瓶に生けられている花を抜き取ろうと手を伸ばせば、男は首を振った。
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