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◆密猟者。

「おい、ここに変わった狐が居るって本当なのか?」 「ああ、間違いねぇ。昨夜、たしかにこの目で見たんだ」  それは|真尋《まひろ》が和の国へとやって来て数週間が過ぎた頃だった。陽はまだ昇りきってはおらず、東の方にある。小高い丘で眠っていた真尋は、妖狐族の特化した聴覚を以て人間の足音をふたつ察知した。  真尋は今、気を抜いている。当然、人型ではなく、尻尾がふたつあるちっぽけな狐の姿だ。ともすれば、この身なりで人と出会せば、間違いなく大事になるに違いない。  ――とはいえ真尋は妖狐族一の落ちこぼれ。すぐ人型に変化できるわけもない。かといって、この丘は大きな植物があるわけでもない。真尋には身を隠す場所などなかった。  しかしながらこのまま大人しく捕まるわけにもいかず、真尋は毛を逆撫で、足音がする方へと向き直ると、口の端にある鋭い犬歯を見せつけて威嚇した。

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