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「…………」
真尋が名も知らぬ可憐な花をジッと見つめていると、昨夜、押し入った屋敷に住む人間のことを思い出した。
それにしてもあの人間は不思議だった。
真尋が刃物を突きつけたのにも関わらず、怯えも見せず、攻撃さえも仕掛けてはこない。
それどころか彼は口元に笑みをつくり、友好的に真尋をもてなしたのだ。
真尋は祖父から、『人間とはもっとも臆病で非力な生き物だ』と聞かされていた。しかしあの男は祖父の言葉とは全く正反対で、驚きを隠せなかった。
そしてもうひとつ驚いたこともある。
真尋の正体を見抜いたことだ。
もちろん、真尋は正体を明かしていない。――にもかかわらず、あの男は自分の正体をあっさり見抜いてしまったのだ。
「――――」
彼 の男はいったい何者であろうか。
人間にはこちら側が考えていることを理解し、見抜く力があるというのか。
いやしかし、人間にそのような力があるということを祖父からは全く聞いていない。
妖狐の中でも落ちこぼれの自分がいるのだ。
反対に人間の中でも優れた力を持つ者がいてもおかしくはない。
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