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 真尋は男に近づき、懐に手をやる。もちろん、真尋が今夜懐に入れてきたのはギラギラとした刃物ではない。 「これ、やるっ!!」  真尋がずいっと差し出したのは、昼間に見つけた白い可憐な花の束だった。  真尋は祖父の言いつけを守り、ささやかではあるが、こうして昨夜の礼になる代わりのものを差し出した。  しかしなぜだろう。ただ昨夜の礼として花を渡すだけというのに真尋の顔が――身体が熱を持つ。  恥ずかしい気持ちになってしまう。 「俺に?」  男は妖狐が礼節をわきまえない無礼なあやかしとでも思っていたのだろうか。俯く真尋と花を交互に見つめ、目を見開いて(たず)ねた。 「お前が、この花と……似てたから……」  訊ねる男に対して真尋が口を開く。  真尋は今まで直面したことがなかった不可解な状況に、内心ドギマギしていた。  ――恐くもないのに声が震える。  ――怒ってもいないのに顔が熱くなる。  これはいったいどういうことなのだろうか。

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