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月光に照らされた可憐な花はとても神秘的で、どこか儚い。やはりこの男の雰囲気と似ていると、真尋は改めて思ったのだった。
「…………」
広い屋敷には昨夜と同じく人の気配がない。
男と真尋の間にしばらくの沈黙が続いていた。
昨日の礼にと花を持ってきたのはいいが、そこまでしか考えていなかった。
いったい自分は何を話せばいいのだろうか。はてさて昨夜の会話はどのような内容であっただろうか。
ぐる、ぐる、ぐるる。
そうやって焦っていると、真尋の腹がまた空腹を訴え、鳴いた。
そういえば、今日も何も食べていない。
今さらだが、真尋は花を渡すことばかりに気を取られ、腹が減っているのも今の今まで忘れていた。
妖狐にとって空腹は大敵である。それさえも忘れるほどこの男に花を渡すことに集中していたとは――。
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