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第3話
仕事が忙しくて、遅い時間まで仕事になってしまった。
隣の部署を見に行くけど、彼はすでにいない。
………仕方ないか。
諦めて会社を出ると、駅のタクシー乗り場でタクシーに乗り込む彼が目に入る。
慌てて自分もタクシーに乗った。
「すみません。
前のタクシーを追いかけてください!」
「お客さん。ストーカーはやめなよ。」
運転手にバックミラー越しにギロリと睨まれる。
「ち、違いますよ。俺、同じ会社なんです。
どうしても直接伝えなきゃいけない事があって……」
「ふーん。」
嘘は……ついてない……よな
確かにストーカーっぽい感じは否定できないけど……
訝 しげな目線を寄越 すタクシーの運転手に耐えつつ、窓の外を眺めた。
付いてくと入っていったのはバー。
店員も客も皆、男。
ここはもしかして……?
しばらく様子を見てると待ち合わせじゃなさそうだ。
海で見た日よりずっと痩せてる。
…………あの日と同じ寂しそうな横顔。
『運命の出会い』って本当にあるのかな。
………………分からない。
でも、彼と話したい。
「マスター。
カウンターの彼にアイ オープナーを。」
昔、遊びで覚えたカクテル言葉。
少し飲んでから、スクリュードライバーを勧めたら、彼が赤くなった。
赤い顔、可愛い……
意味、知ってたのか。
映画で有名になったカクテルだしな。
駆け引きみたいに次々、カクテルを勧めた。
ずっと後腐れのない相手とばかり付き合ってきたから、こんな風に誰かを口説くのも必死になるのも久し振り。
彼は全然、笑わない。
ヤケになるみたいに、次々とカクテルを飲み干す。
少しは元気になって欲しい。
隣にいるけど、遠い距離感。
触れたい。
抱きしめたら、どんな顔するだろう。
俺の事、意識して…………
渦巻く感情。
自分の中にこんな気持ちが残ってたのかと、少し驚く。
………………逃したくない。
このチャンスをモノにしたい。
場所を変えて飲み直そうと誘ったら、アッサリ彼は付いてきた。
多分失恋したんだろう。
投げやりな彼を連れて、バーを出た。
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