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第8話
二人で夕飯を食べに言った時だった。
「歩さん」
呼びかけられて、歩が振り向く。
「瑛人……」
コイツが『瑛人』…………!
歩を振った元彼……!
体がカッと熱くなる。
「あぁ。アンタが元彼?
でも触んなよ。もう俺のもんだから。」
歩の前に立ち威嚇した。
「な……」
見逃さなかった。
元彼の動揺。寂しそうな顔。
「何、悔しそうな顔してんの?
お前が振ったんだろ?」
気付いたからって遠慮するつもりはない。
こんな気分初めてだ。
ぶん殴ってやりたい。
「お、おい。葉月!」
「歩さん、本当にこの人と……」
瑛人が歩の肩を掴み、イラッとして、その手を払った。
「触るなって言ってんだろ!」
歩の手を引き、無理矢理、唇を奪う。
「ん……!」
今更一体、なんなんだ!
自分から振ったくせに……!
「葉月!馬鹿!お前……」
「だって腹立つ。」
「腹立つでキスする奴があるか!」
ふと瑛人の名前を呼び泣きながら眠る歩を思い出す。
「歩さん……」
瑛人からは歩と同じ銘柄のタバコの匂い。
しかも……俺と同じ香水の香りもする。
ついでに、なんとなく声まで似てやがる。
気付きたくなかった。
…………歩が俺を選んだ訳。
クソ……
……邪魔者は俺の方か。
「歩は……」
言いかけてやめた。
聞きたくない。
「来て。」
強引に手を引き、何か言いたげな瑛人を残し、その場を後にした。
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