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第11話
なんとなく予感はしてたんだ。
いつか、その日が来るって……
二人でテレビを見てる時だった。
家に突然、元彼が訪ねてきた。
「瑛人……何しに来たんだよ……」
歩の動揺した声。
表情は見えない……
「やっぱり歩さんが好きだって気付いた。
もう一度、俺と付き合って。」
その言葉を聞いて立ち上がる。
自分のカバンを掴み、玄関へ向かった。
やっぱりな……
そのうち来るとは思ってた。
最後に歩を見つめる。
歩……
お前が好きだった…………
笑うと可愛いとこも
照れ屋なとこも
ちょっと口が悪いとこも
一生懸命なとこも
…………優しい歩が好きだった。
揺れる瞳。
心配そうな顔。
「良かったな。」
「葉月……」
『良かった』なんて、本当は一つも思ってないけど…………
「俺、帰るよ」
「ま……待てよ。葉月」
分かってる。
歩は不器用な奴だ。
お前には二股とか無理だろ。
何度も瑛人を想って涙してた。
一途な歩の願いが叶う……
…………最後くらい、背中を押してやれ。
「今までありがとう。
会社に言ったりしないから心配するなよ。」
カチャ
ドアを開ける。
「待てよ!葉月!」
呼び止められて、本当は心が揺れた。
「行かないで……歩さん……」
瑛人に抱きしめられてる歩が目に入る。
分かってたけど……痛い…………
グッと胸を押さえる。
………………今日で最後だ。
もう連絡しない。
ラインも電話も……
「葉月!」
振り向かず、歩の家を後にする。
すぐにタクシーを拾い、初めて歩と出会った海へ行った。
今夜は風が強くて波が荒い。
防波堤に打ち付ける波をぼんやり見つめながら、俺はそっと覚悟を決めた。
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