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第13話

「隣の課の方がお見えですよ。 お名前……なんて言ったかしら。やだわ。ド忘れしちゃった。 ごめんなさい。もう一度聞いてきます。」 派遣の人が言う。 「いいですよ。行ってみます」 今日は誰か来る予定なんか、あったっけ? 隣の課…… …………隣? オフィスの入口に近付き、Uターンした。 …………歩!? え?なんで…… 「すみません。名前、ウッカリして…… 大丈夫でした?」 派遣の人に言われて慌てて答えようとした時、 仕事用の携帯が鳴った。 「申し訳ないんですが、今、立て込んでて後で連絡すると伝えてくれますか? アイツ、友人なんですよ。」 …………一体なんだよ。 ラインも電話も受け取れないようにしてた。 もしかしたら連絡くれた……? 俺に会いに……? 真っ先に思いついたのは謝りに来たのかもしれないという推測。 告白されたのに、ちゃんと答えなくてごめん? やっぱり瑛人が好きだからごめん…………? …………そういうの、いらないから。 別にお前が悪いわけじゃないだろ。 頼むから、ソッとしといてくれ。 連絡はしないよ。歩。 声なんか聞いたら会いたくなるだけだから…… やっと仕事が終わった。 もう10時だ。 週末はいつも歩と泊まりだったから最近はずっと金曜日が楽しみだった。 …………また歩の事を考えてる。 重症………… 今日はビール飲んでさっさと寝よう。 アパートのドアの前に誰かが座っていてドキッとする。 ……誰!? …………あ? すぐに、その人物が歩だと気が付く。 歩…… …………歩だ。 理解出来ず呆然としてると、歩がクシャミをした。 「くしゅっ」 ビクッと体を揺らし、目をこすってる。 「…………何してんの? まさかと思うけど寝てた?」 「けほ……家に入れてくれる?」 「歩は狡い奴だ。」 クシャミして、咳までしてたら、流石に追い出せない。 仕方なくドアを開ける。 少し赤い顔の歩。 一体、どれだけ玄関で寝てたんだ。 熱があるんじゃ………… 体温計を取りに行こうとしたら腕を掴まれた。 「…………葉月。俺。 お前と会えなくて寂しかった。」 その瞬間 堪らない気持ちになる。 今にも泣きそうな顔…… 人が諦めようとしてるのに、お前って奴は…… 「この小悪魔……」 我慢出来なくて歩を抱きしめた。 …………本物の歩だ。 気付いたら、歩は静かに泣いてた。 そっと指で涙を拭う。 「………………俺も寂しかった。」

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