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【 狐、その尾を濡らす】なかじまこはな

小さい頃、見た光景を今も鮮明に覚えている。 晴れているのに小雨が降っていて青空の半分に灰色の雲が浮かんでいて、その雲の隙間から陽射しが池に向かって伸びていて、伸びた陽射しに蒼白い炎がポツポツと列をなして空に上がっていく光景。 凄く綺麗で思わず見とれてしまった。 その後、寺の住職をしている祖父から「狐の嫁入りだよ」とその光景の名前を教えられた。 また、見たいなって天気雨の日には池で待ってたりしたけれど、あれ以来……見ていない。 ◆◆◆ 「ほんと、クソ坊主やん」 蔵の中で真琴(まこと)は呟く。 学校に行かず、友人とゲームセンターで遊んでいたのが祖父にバレたのだ。 罰として蔵の掃除を命じられた。 サボっても良いのだが真琴の祖父は妙に迫力があり本気で怒ると逆らえないのだ。 「だいたい、親父達が俺も連れて行ってくれたらこんなボロい寺で暮らさんでも良かったとに」 棚の埃を叩きながら自分の両親に恨みごとを言う。 真琴の両親は海外転勤で彼を置いて夫婦二人で引っ越してしまったのだ。 自分も行きたいと言ったら高校は日本で!!と強く言われて祖父の住む寺に居候する羽目になったのだ。 「ちくしょー!!金髪ボインの彼女とかさあ欲しいやん?」 ボヤキながら棚を掃除していたら大きな箱を見つけた。 結構な埃がかぶっている。 その箱をどこかで見たなあ……と思いながらハタキをポイッと手放すと両手で箱を持ち上げた。 「軽!!!」 大きな箱だから重いかと思ったが空かな?っていうくらいに軽いのだ。 「空箱かよ」 お宝でも眠ってたら小遣いにでも……とか思ったりしてたのでなんだかガッカリ。 空箱なら捨てりゃいいのに……だから片付かないんだ!!と真琴は箱を処分しようと下へ降ろした。 箱には何か書いてあるが埃で良く見えない。それをハタキで払い文字を見る。 「んん?封印?」 箱の蓋に封印と書いてある。 「空箱なのに封印?なんやろ?」 真琴は蓋を手にして……ふと、昔、祖父が封印がどうの……と言っていたのをボンヤリと思い出していた。ちょうど、狐の嫁入りを見たくらいだった。 なんだっけ? 真琴が思い出そうと考えていると突然激しい雨音が蔵の中に響いた。 雨?あれ?今日って天気予報はずっと晴れのはず……。真琴を箱を持ったまま蔵の入口から外を見た。 ザーザーッと雨が降っているのだが、向こう側は晴れている。 「天気雨……狐の嫁入り?」 真琴はあの光景をまた思い出した。 暫く見ていると手元が緩み、箱が下へ落ちた。 「やば!!」 慌て拾うと蓋が空いていた。 「やっぱ空箱やん……封印って大袈裟ばい」 真琴は笑いながら箱を拾うと中からコロリと巻物が出てきた。 「は?巻物?音なんかせんやったやん……」 持った時には本当に空っぽな感じだった。何か入っているなら中で転がったり多少は重かったりするのに。 真琴はその巻物を広げた。 ドスン!!! 巻物を広げた瞬間、何かが真琴の上に乗ってきたような重さ。 「いたっ」 その場に倒れた真琴は尻と腰と後頭部を打ち付けた。 何で重く? 倒れたまま天井を見上げる形になったのだが、何か自分の上に居る。 そいつの重みだろう。 しかも、いつの間に蔵に?真琴は1人で居たのに……。 「お前……だれ?」 真琴は自分の上に居る誰かに声をかけた。 自分の上に居る誰か。 それは金色の長い髪に金色の瞳の綺麗な顔をした誰かだ。 外人さん? 最近良く外国人観光客が寺に観光に来る。観光客? その外人さんらしき誰かは衣装でも借りたのだろうか着物のような……着物というか平安時代の男子が着るような衣装を着ている。 ここら辺にこんな衣装貸してくれるとこあったっけ?なんても考えた。 「あの……いい加減に降りて貰えません重い」 言葉にして、あっ!!英語とかじゃなきゃ無理かな?とその誰かを見上げた。 「お前……怖がらないんだな」 「は?」 誰かが自分を見下ろしながら変な日本語を言った。怖がらない?今どき外国人を怖がるヤツいるんか? 「日本語わかるなら良かった……降りてくれん?重いっちゃけど?」 「ああ、すまん」 素直に降りてくれて、真琴に手を差し出し起こしてくれた。 「寺ば見に来たと?じい……あ、住職なら本堂におるけん訪ねたら良かよ」 真琴は倒れた時についた埃を叩きながらに言う。 「住職?ああ、俺を封印したクソジジイか」 「は?」 真琴は服を叩く手が止まる。 「お前もクソジジイみたいに力あるみたいだな……だから箱を開けれた。助かったよ」 真琴を見てニコッと笑うその誰か。 その笑顔をどこかで見たような? 「お前、クソジジイの何?」 「え?クソジジイの?孫やけど?」 質問された事に答える。 「……孫って女の子居ただろ?真琴って名前の」 「女の子?いや、孫は俺だけやし、真琴は俺」 真琴は自分を指さす。 目の前の誰かは真琴の身体をガシッと捕まえるとまさぐり始める。 「ちょーーー!!!なんばしょっと!!」 声を荒らげる。 身体をまさぐる手は服の中に入り、胸を触る。 「やめんね!!あんた、痴漢?男ば襲って楽しかね?」 「胸ない」 触った感想を述べる誰か。 「あるわけなかろうもん!!男やけん」 「オスとは思わなかった……お前、小さい時女の子みたいに可愛かった」 「は?突然何?」 「お前を嫁にするって言った」 「は?」 嫁? 真琴はキョトンとなった。 嫁……嫁……ちょっと考えてみた。 「お主、私の嫁にならぬか?狐の嫁取りを人間に見られた狐は嫁を取れなくなるんだ……だからお前が代わりに」 遠い、昔……そんな事を言われた事があった。 「嫁取り?嫁入りじゃなくて?」 あの時に言われた言葉が今思うと変だった。普通は狐の嫁入りという。 「嫁入りは雌だ。私は雄だからな嫁取りだよ」 「えっ?じゃあ、あれって嫁入りじゃなくて嫁取り?」 あの綺麗な光景をまた思い出した。 「そうだよ、お前に見つかった……」 真琴はその見知らぬ誰かを見つめる。 金色の瞳。 ああ、そうだ……見た事がある。 「お前がオスだとは思わなかった……匂いがしなかったから……でも、可愛い顔は変わらないまま……成長して色気が出てきている」 金色の瞳が近付いてきた。 「真琴……私の嫁になれ……私は……」 唇が触れそうになった瞬間、ガシッと手のひらで唇を真琴に塞がれる。 「何ばしよるとか!きさん!」 真琴は睨みつける。 手のひらで塞がれたまま「きさん?」と聞き返す。 「おわ!喋んな!きょしょくわるかぞ!!」 「……真琴、頼む日本語話してくれ」 困ったように真琴を見つめる金色の瞳。 「話てるやろーが!」 「きさんって何?」 「お前って意味」 「きしょくわるかは?」 「気持ち悪いって意味」 「……何語?」 「日本語だよ!」 「知ってる日本語と少し違う……」 「うっさい!ここは福岡ぞ!福岡弁くらい知っておけ」 真琴の言葉に「ああ、方言か」と理解したようだった。 「嫁とか何?っていうかあんた誰?」 「……説明しただろ?狐の嫁取りを人間に見られたって」 「……頭、大丈夫か?何か今、そういうと流行ってんの?」 キョトンとする真琴。 「お前、妖力のある狐にたいして酷い言い草だな!」 金髪金目は真琴から離れるとスッ……と容姿を変えた。 そのにはモフモフで大きな狐が居た。 大きくて凛々しい狐。 「もふもふ!!!」 真琴はそのモフモフに抱きついた。 抱きついて、昔、大きな犬を飼ってたのを思い出した。 名前をつけてた。 「しおん……」 「なんだ、ちゃんと覚えているじゃないか」 「おわ!狐が喋った!!」 真琴は離れる。 「お前こそ、馬鹿か何か?今、化けただろーが!」 狐がまたスッと姿を変えた。 「えー、モフモフがいい!!」 真琴は不服そうに訴える。 「お前……」 ハアっとため息をつく金髪金目。 「しおんって……昔飼ってた犬」 「犬じゃない!それは私だ!」 「ほえっ!!」 真琴は変な声をあげる。 「ほえっ!!ってなんだ!お前が名前をつけてくれたんだろ?嫁になる約束で」 「はあ?何それ?」 「本当に……お前は……」 真琴を捕まえるとそのまま、床に組み敷いた。 「あの日、お前と約束したんだよ……契約を交わす代わりに名前を私に付けたんだ紫苑って……お前が大人になるまで待とうと狐の姿で側にいた……でも、クソジジイに正体がバレて封印された。アイツ、生くそ坊主かと思ったら力ある僧侶の末裔だった」 紫苑と名乗った彼は真琴の両手を押さえる。 「えーと、その紫苑さんはもしかしなくても男ですよね?」 「そうだ!見るか?」 「結構です!」 「男だったとはいえ……想像以上に美しく育ったな……」 紫苑は真琴の顔に触れる。 「そんな褒め言葉嬉しくないっちゃが?」 「……頼む、わかるように話してくれ」 「何だよめんどくさい覚えろよ」 吐き捨てるように言うと紫苑を睨む。 「顔と口の悪さがあってないな……じゃじゃ馬っを慣らすのも楽しいかもな」 紫苑はまた顔を近付けてくる。 「だーかーらー、何ばすっとやって!」 真琴は脚で紫苑の尻を蹴る。 「本当においたがすぎるな……お前は……まあ、それだけ元気ならこの後の行為も楽しめそうだ」 「は?何言いよっとよ?」 「お前、まだ未体験だろ?処女……あ、違う童貞か」 「やかましかぞ!」 真琴は暴れるが紫苑の押さえる力が強く逃げれない。 「儀式だ……ずっとこの日を待ってた」 紫苑から甘い香りが漂う。 「なん?この香り……甘い」 「この匂い嗅ぐと……発情するんだよ」 「は?」 真琴はキョトンとする。 「人間には発情期がないから私の匂いで誘ってやる……大人しく抱かれろ」 紫苑は真琴の唇にキスをすると、閉じた唇を無理やり舌でこじ開けると口内へと侵入させた。 「んっ……」 顔を背けようとするが絡んでくる舌が離してくれない。 くちゅくちゅと耳に聞き慣れない音が聞こえてくる。 紫苑の舌は真琴を刺激してくる。そして、甘い香り。 次第に気持ち良くなってくる。 舌が絡むキスは結構長かったと思う……唇を離すとさっきまで生意気な口をきいていた真琴は頬を赤らめて潤んだ瞳で紫苑を見ている。 大人しくなったな……。 紫苑は真琴の首筋へ舌を這わす。 「んっ……」 舐められる度に真琴は可愛く声を上げて気持ち良さそうだ。 着ている服がたくし上げられピンク色の可愛い乳首が空気に触れ晒されても真琴は抵抗しない。 すっかり甘い香りの虜になっているようだった。 「初めてだったな……優しくしてやるよ……」 紫苑は上半身を起こし、着ている着物をはだけさせた。 白い肌。でも、逞しい綺麗な身体だ。 少年の真琴とは違う大人の身体つき。 着物を脱ぐ為に力が少し緩んだ。 そのほんの一瞬だった。 天地がくるりと逆転した。 真琴を見下ろしていたはずが真琴に見下ろされている。 「あれ?」 紫苑は真琴に組み敷かれていた。 「何が優しくしてやるよだ!俺を女の子扱いするな!俺は男だ!」 真琴は紫苑の両手を床に押さえつけた。 「お前、香り何ともないのか?」 「……なんともないわけないやろ?ちくしょー!身体が熱か!!責任取れよ俺をムラムラさせやがって」 真琴は紫苑に体重をかけ、そのままキスをした。 まさに野獣。そんなキス。 あれ?あれあれ? 紫苑は慌てた。 「ちょ!まて、まて!落ち着け」 真琴を無理やり自分から離す。 「待てるか!思春期の男子高生を舐めんなよ!!」 真琴は自ら服を脱ぐと紫苑の着物も無理やり脱がせた。 「きゃー!!!」 紫苑から女の子のような悲鳴。 「何がきゃーや!今更やん!」 真琴は紫苑を押さえると行為を続けた。 ◆◆◆ 「んっ、あっ、やだ……」 蔵の中で艶っぽい声とパンパンという肌がぶつかる音が響く。 組み敷かれた紫苑は体勢を変えさせられ後ろから挿入されていた。 「あっあっ、」 紫苑はもうトロトロで「いく!!」と声をあげて昇天した。 「……俺も……」 その後に真琴も紫苑の中で白い液体を放ち果てた。 ◆◆◆ 「くそ!!」 果てた後、少し眠っていたようで起き上がると横に爆睡中の真琴がいた。 抱くつもりが抱かれてしまった。 しかも「気持ち良かったあああ!!」と頬を赤らめる。 「うるさい」 紫苑の叫び声で目を開けた真琴。 「……せ、責任取れよな」 「何が?」 「何がじゃない!」 真琴は起き上がると「ああ、紫苑も初めてやったっちゃろ?」そう言った。 「は、初めてじゃないし!!」 紫苑は目を逸らして顔が赤い。 「可愛いかったよ?あと、気持ち良かったし」 「くそう!!クソガキ」 紫苑はまだ顔が赤い。 「なあ、今更けど、何でじいちゃんに封印されたと?」 「ほんと今更聞くなよ!嫁にするって言ったからだよ、大事な孫を連れていかせるか!って封印された」 「まじか……クソジジイやるなあ」 真琴は脱ぎ散らかした服を集める。 「責任取れよな」 「嫁に取るとか?逆やんか、お前が嫁っぽい」 「うるさい!人間に抱かれるとあっちの世界には戻れないんだよ!元々、お前に見られたから戻れないし」 「は?そーと?じゃあ、お前、どーすっとよ?」 「だから責任取れって言ったんだよ」 「また封印される?」 「いやだ!」 「じゃあ、狐の姿で飼ってやろうか?」 「ふざけんな!」 紫苑は真っ赤な顔で怒る。 「嘘っちゃ!じいちゃんに頼んでみる。寺、今、バイト募集しとるけん」 「は?仕事させる気か?」 「そうけど?働かざるもの食うべからず!」 真琴はニヤリと笑い紫苑に着物を渡す。 「俺の側に居たいっちゃろ?」 ニヤニヤされて「うっ……」と反論できない。 「居させてやる!」 真琴は紫苑の頬にキスをした。 紫苑は真っ赤な顔で真琴をみる。 「嫁にするっちゃろ?」 真琴は笑顔で聞く。 「うん」 「じゃあ、決まりやね!」 紫苑は真琴と契約してしまったのだった。 【感想はコチラまで→】なかじまこはな@nakajima00587

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