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【封印を解いたらお狐さんと××しちゃった僕】SIVA
《封印を解き、我を解放せよ―――――》
***
五十嵐家には古い蔵が敷地の奥にある。
五十嵐雅臣 は幼い頃は曽祖父と一緒に頻繁に出入りしていた。
『おおじぃ!これなぁに!?』
『それはまた随分と古い巻物だな。うむ。これはうちの家宝だ。災いやトラブルが起きた時、昔からこの巻物の封印を解いてお狐さん に相談していたんだ。と言っても5歳の雅臣にはまだわからないか。』
『お狐さん?』
『おぉそうだ。この巻物があるという事は―――――』
曽祖父は、少し置くへと入っていき何かを探し始めた。
雅臣はそれをじっと見ながら目をキラキラと輝かせている。
曽祖父が手にしているのは少し大きめの写真?のようなもの。
『おおじぃ、それなぁに?』
『これがこの巻物に封印されているお狐さんだ。』
見れば、長髪の美青年が目を細めながらこちらを見ていた。
雅臣は一瞬にして心を奪われた。
『おおじぃ。このお狐さんなんか綺麗だね。』
曽祖父が持っている写真を受け取りながら、そこに映るお狐さんの顔のラインをそっと撫でる。
目を輝かせたまま雅臣は曽祖父からその写真を貰った。
この時の感情を雅臣はまだはっきりとはわかっていなかった―――――。
蔵には昔から五十嵐家に伝わる巻物が何巻きか保管されているが、それは時と共にヒッソリと奥へと追いやられ、蔵は今物置と化している。
曽祖父からもらった写真もいつしか机の奥へとしまい込まれ、お狐さんの存在も忘れ去られてしまう。
仲のよかった曽祖父も他界し、時は流れ、雅臣も思春期に入り中学生も二年になる頃には蔵には完全に近づかなくなってしまった。
***
高校に入学した雅臣はある日、不思議な声を聞いた。
《開けよ―――――》
「ん?」
振り返りあたりを見回すが、空耳だと思いこの時はまだ蔵の存在を忘れていた。
「いってきまーす。」
つま先を地面に叩きながら玄関の引き戸を勢いよく開けた。
眩しい太陽の光が降り注ぐ週初め。
太陽を見上げながら目の前に光を遮るように手を上げる。
《開けよ》
「ん?」
また何か聞こえた気がして振り返る。
「はよー雅臣。ん?どした?」
近所に住んでいる親友の:加賀見新汰(かがみあらた)が首を傾げながら雅臣を見降ろす。
「あ、新汰おはよう。なんでもないよ、気のせい。」
「ん、よくわかんないけど、学校いこう。」
二人は家を後にした。
新しい学校新しいクラス新しい制服。
雅臣は少しドキドキしながら席についた。
窓側の一番前の席。
制服のズボンにじんわりと汗ばんだ手の平を乗せ拭いた。
「あれ?」
ズボンに手を当てていると、ポケットに何か入っている事に気がついて引っ張りだしてみた。
いつ誰がいれたのか、自分では絶対に入れない。入れたら覚えている。
「なに、これ??」
古い古文書のような文字。
それが全てではない。これはほんの一部で切れ端。
眉間にしわを寄せながらそれをひっくり返してみた。
「あっ!」
雅臣は思わず声を漏らしてしまった。
ホームルームの時間で教壇に立っている新任の教師が、こちらをキョトンとした顔で見てきた。
雅臣は思わずポケットにそれをしまい直し体を縮めた。
***
「ああ笑える!」
「笑えないからな。いつまでもそんなこと言うなよ。」
休み時間になり、真っ先に新汰が雅臣の席に近づいてきた。
「だって、あの静まり返った教室に突然『あっ♡』とか言うんだぜ?」
「そんな風には言ってないから。」
男子校でよかったと思う雅臣だが、どうにもここの生活になれる自信がない。
「それで?声を出した原因って何?」
身を乗り出しながら雅臣の顔を覗き込んできた。
雅臣は思いだしたかのように目を見開きポケットに手を入れ先ほどの紙を取りだすと、新汰にそれを渡した。
「ん?何?これ紙?写真?」
「んーこれ昔すっごく大切にしていたものなんだけどさ。机の中にしまってあったはずなんだよ。」
髪の毛をかきむしりながら首をかしげる雅臣は、納得がいかない表情を見せた。
「それが何でここにあるんだ?」
「それは僕が知りたいよ。」
新汰はあまり興味がないようでその写真のような紙のようなものをパタパタとやっていた。
雅臣は冷や冷やしながらそれを見守っている。
「あ、あんまり粗末に扱うなよ。」
「あぁ、悪い悪い。」
予鈴がなりパタパタさせていた手を止め雅臣に返すと自分の席に戻って行った。
今一度手にしたそれを眺めながら、また顔のラインを指でなぞった。
何故すっかり忘れていた写真がポケットに入っていたのか、何故今またここに写っているお狐さんの顔のラインをなぞっているのか。
「謎だらけだけど……。」
雅臣の心にふと舞い降りてきた妖狐の存在。
「会ってみたいな。」
***
終礼が終わったのと同時に雅臣は教室を飛び出した。
「新汰!ごめん!今日は先に帰る!!」
「は?おい!雅臣??」
逸る気持ちを抑えながら無我夢中で家に帰った。
久しぶりにこんな走ると、さすがに疲れたが雅臣は玄関にバッグを投げ置いて敷地の裏手に回った。
蔵が目の前に見えてくると途端に鼓動が早くなるのを感じた雅臣は、自分の胸に手を当てた。
なんでこんなにもドキドキしているんだろう。
このふわふわとする感じはなんだ。
まだ先にある蔵に胸に当てていた手を伸ばしてみる。
ドクンっとまた心臓が跳ねた。
小走りで蔵の前に立って大きな扉を見上げた。
子供の頃はもっと大きく感じた蔵が、今ではそんな感じはしない。
扉にかけられている南京錠を見てガチャガチャと揺らしてみた。
どうして物置と化しているはずの蔵にこんな頑丈な南京錠がかけられているんだろう。
誰がこんな鍵を?
「雅臣様?何をされているのですか?」
「あ、景山。」
突然背後から声をかけられ驚いた雅臣は腕を組んでこちらを見ている使用人の景山を見上げた。
「ここの鍵をかけたのって、景山?」
「はい。大旦那様に言われ、先日鍵をかけさせていただきました。」
「じいちゃんに言われて?なんで?」
「妙な音がする…とおっしゃっていましたが。」
「妙な、音……。」
再び蔵を見上げる雅臣はジャリッと南京錠を握りしめた。
「雅臣様?」
景山は持っているほうきを下に置き雅臣の背後に立った。
南京錠をじっと見つめていた雅臣は景山の影にふと視線を上に向け「景山はさ、この鍵を持ってんの?」と聞いてみた。
目を丸くして雅臣を見降ろす景山は「いえ。わたくしは持っておりません。鍵の管理は大旦那様がしておりますので。」小さくかぶりを振った。
「じいちゃんかぁぁぁぁ。」
うなだれるように膝から崩れ落ちた雅臣の姿を見て慌てた景山は両手を雅臣の脇に入れ彼を支えた。
「ま、雅臣様!!大丈夫でございますか!??」
「あぁ、うん。大丈夫。ねぇ景山?じいちゃんからその鍵を借りてくる事はできる?」
「許可を頂けるかわかりませんが、伺ってみましょう。」
「うん。ありがとう。」
彼が直接祖父に掛け合わないのは、あまり祖父の事は好きじゃないから。
曽祖父と仲良くしていたせいか、祖父はあまり雅臣を構う事はなかった。
それどころか今時の格好をする雅臣を見る度に『五十嵐家の品位にかける』などと言ってネチネチグチグチと小言を言ってくるのだった。
「おおじぃが生きてたらな……。」
仕方なく今は蔵から離れる事にした。
蔵を背にしていたため蔵の中からシャランっと鈴の音が聞こえたが、この時雅臣の耳には届かなかった。
***
真夜中―――――
雅臣は不思議な夢を見た。
《雅臣》
《え、おおじぃ?》
《久し振りだな。大きくなったな!!まぁ元気にしているのはよく見ていたがの。》
雅臣はあたりを見回しながら、目の前にいる曽祖父の方へ歩み寄った。
《これ夢でしょ?》
《あぁ、もちろん。》
《なにか頼み事?》
夢の中とはいえ、曽祖父が出てきた事とへの若干驚いたが意外にも冷静な自分にも驚いてる雅臣。
そんな雅臣をよそに曽祖父はニコリと笑いながら片手をあげている。
その手にはいくつもの鍵が束なっているキーホルダーがあった。
《お前が手にしたいと思ってな。ほれ。》
雅臣が、曽祖父に近づこうとしても一向に縮まらないが曽祖父が手に持っていた鍵を雅臣に向かって投げてくると、それはすんなりと雅臣の手に収まった。
《なに?》
《お前が今一番欲しがっているものだ。》
《僕が、一番欲しい……。あ!》
曽祖父はニコリとしたまま頷くと《冒険の始まりだ。》ウキウキした声が耳元で聞こえると、雅臣は自然と目を覚ました。
手を見ると夢で見た形と同じ鍵が握りしめられていた。
『おおじいが……。』
まさかと思いながら体を起こし鍵を握り返すと、一気に覚醒する。
直ぐに布団をはぎ取り部屋を飛び出すと一直線に裏手にある蔵に向かった。
勢い余って裸足で飛び出してきてしまった雅臣は途中よろめきながらも何とか蔵の前まで辿り着いた。
南京錠の背ある鍵穴を確認し、いくつもある鍵の中から一発で見つけ出し鍵穴に差し込んだ。
ザリッと金属がこすれる音と共に鍵は開錠された。
雅臣は思わず生唾を飲み込んだ。
南京錠を外しそれをその場に置いてゆっくりと扉を押し開けた。
蔵の中は、長い事換気をしていなかったせいか随分と湿気臭くなっている。
腕で口元を覆いながら、ゆっくりと中に入っていく雅臣は自分の足元を見て我に返った。
―――――靴、電気―――――。
小さくため息をついて、また一目散に母屋まで戻った。
今度はちゃんと靴を履き、手には小さなライトを握りしめ蔵に戻った。
気を取り直し、蔵の中をゆっくりと明かりを照らした。
雅臣が幼い頃によく出入りしていた頃の蔵の中とは随分と変わって色んなものが乱雑に置かれている。
『おおじぃが見たら泣くよ。』
光を目で追いながら辺りを見ていると、何とか奥へ行けそうな場所を見つけ出し奥へと行こうとした時だった―――――。
ジリリリリリリリリリリリ―――――。
雅臣はあたりを見回しながらブンブンとライトを当てた。
『な、なに!?なに!?』
あたりを見回せど何が起きているかわからず焦っていると、頼りの電気もふわりと消えてしまい辺りは真っ暗。
唐牛 で入り口の扉が開いている場所から漏れる月の光で足元だけは確認できる。
急いで扉の方まで行こうと一歩下がると、何処からともなく誰かに腕を掴まれた……気がして思わず声をあげてしまった。
「わっ!!!」
同時に目が覚め身体を勢い良く起こした。
汗ばんだ手には布団がしっかりと握りしめられその傍らには南京錠と鍵が置かれ、鼓動はマラソンをした時くらい早い。
何処から夢で何処から本当の出来事だったのか、寝起きの雅臣には理解できなかった。
***
次の日も放課後になると一目散に帰宅した雅臣は、あたりを見回し南京錠を握りしめながら開錠した。
夢で見た通り乱雑な蔵の中は湿気臭い。
スマホの明かりを頼りに奥へと進んだ雅臣は、昨晩見た夢の通りな事に動揺を見せながらも奥へと行けそうな場所に体を入れた。
奥は、入り口程物は置かれておらず意外にも昔のままの状態だった。
雅臣はいつの間にか鼻と口を覆っていた腕は下ろされ夢中になっていた。
ガタン
「いってぇぇっ……。」
夢中になりすぎて足元をちゃんと見ていなかった雅臣は悶絶しながら脛を抱え座りこんだ。
勢い余ってぶつかったそれは蓋が開いてしまい中身がゴロゴロと飛び出してきてしまった。
脛をさすりながら足元に転がってきた一つを拾い上げてみるとそれは箱に入っていたにもかかわらず随分と埃をかぶった巻物だった。
「汚いけど…これ昔おおじぃが言ってた巻物?」
他にも転がっていってしまった巻物を探すため四つん這いになりながらかき集めて蓋をした箱の上に並べた。
最初に拾い上げた巻物以外は、それほど埃はかぶっていなかった。
雅臣は明かりを確保すると埃をかぶった巻物紐に手をかけた。
ヒュォっと風が軽く雅臣のほほを撫でていく。
奥へと入った蔵に風が入るわけがなく、ほほに伝わった生ぬるい風に思わず手を当てあたりを見回す。
その拍子にはらりと巻物の紐が解かれ雅臣の手からスルスルと垂れていった。
「お、わっ!!!」
慌てて拾いながら中身を見た。
「すごく…何て言うか……これ……。」
巻物になんて書いてあるのか何故かわかる雅臣は、不思議に思いながらそっと文字をなぞりながら一文を読み上げた。
シャラン
読み上げていた正臣の頬に今度は暖かい何かが当たった。
『肇 っっ!!』
優しく愛おしむようなその手つきに言葉を失っている雅臣。
「……はっ?」
『やっと我を開放してくれたか!!』
「い、いや、僕はっ……。」
戸惑う雅臣を余所に目の前の見知らぬ男は目を弓のようにくっきり曲げながら微笑んでいる。
(ち、近い……。)
雅臣は頬に乗せられている手を払いながら立ち上がった。
「なに?誰?どう言う事?」
男をよく見れば、長い金髪は綺麗に結われその頭には大きな耳がついている。
「ん?」
目を細めその耳を凝視した後改めて男の全身を舐めるように見た。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
『肇、どうしたそんなに大きな声を出して。』
「あ、あ、ぼ、僕はおおじぃじゃないです!おおじぃは、その…もう亡くなってます。あ、あなたはも、ももももしかして…もしかしなくても―――――。」
ポケットにしまっていた紙を取りだしその中の人物と目の前の男を照らし合わせながら「お狐さん?!!!!」とまた声を上げた。
『肇が、死んだ?』
お狐さんは雅臣の質問には答えず曽祖父が亡くなっている事にショックを受けているようだったが、直ぐに気持ちを切り替えたのか『そうするとお前はあの時肇の隣に隠れるようにいたひ孫か?肇の幼い頃にそっくりだ。』とまた目を細め微笑んだ。
「あ、あぁ。近所の人たちにも良く言われるよ…。」
(相変わらず距離が近いんだけど……。)
微笑んだ顔はそのまま雅臣の顔と数センチと言う距離まで近づいて『愛おしい肇の若かりし頃を思い出すなぁ。』何とも意味深げな言葉を言うと突然雅臣の唇にキスをした。
(!!!!!!)
雅臣は自分の身に何が起きたのかこの状況をすぐには理解できなかった。
身体を離そうにもうまく足に力が入らず、お狐さんのキステクが思った以上な事に驚きを隠せないでいたが、雅臣もスイッチが入ってしまったらしく負けじとそれに応えてしまった。
『んっふっ。』
お狐さんの吐息が漏れると唇がゆっくりと離れていく。
トロントした表情を見せたお狐さんは、雅臣のシャツに両手を置いて『んー……。』と甘えるような声を出した。
「な、なんだよぉ。」
『肇と初めて交わした接吻を思い出す。いや、お前はそれ以上だな。名を何という?』
胸元でスリスリとしながら話をするせいで、雅臣の顔に長く尖った耳があたる。
「せっぷ……。あ、僕は五十嵐雅臣です。」
『まさおみか。ん、今日からまさおみが我の主だな。自由になんでも言うといい。』
「あ、る、じ?僕が?」
『まさおみが、この巻物を読み上げ我を召喚したのだ。当然であろう。』
なんだか良く分からないまま、雅臣は手にしたままの巻物に視線を落とした。
「ん?なんで?」
さっきまですらすらと読むことが出来ていた文字が今では全く理解できない。
目を丸くしたまま未だ密着状態のお狐さんを見降ろしながら「なんでこれ読めなくなってるんだろう。」と問えば『我がここにいるからではないか?』と鼻をスンスンさせながら話をしている。
『まさおみはいい匂いがするな。我好みの匂いだ。』
まったく会話になっていないが取り敢えずは様子を見る事にした。
***
その日の夜―――――。
夕飯を食べ終え自室で宿題をしていると、風もないのにまた頬に生暖かい風が撫でてき背筋がゾワッとなり振り返った。
目の前に紫色の着物があり、着物の紐が鼻先を行ったり来たりしている。
『まさおみ!』
モフモフの身体が顔を覆い背中には温かい手のぬくもりが伝わってくる。
(僕、もしかしてお狐さんに抱きしめられてる?)
モフモフが気持ちよくてボーっとしてきた頃ハタと我に返り着物を握りしめ「お狐さん!!!」と声を上げながら引きはがすとピンと立っていた耳がしおれていく花のようにしょぼしょぼと垂れていくのが見えた。
『まさおみ。どうしたのだ。』
「あ、いや、そのなんかそのなんか何とも言えない気配って言うのか何て言うのか、それ何とかならない?」
『妖狐にそのような事を言われてもな。慣れるしかなかろう。』
(あ、そうですか。)
ほとほと諦めていると、身体を曲げたお狐さんが雅臣の顎の下に人差し指を置くと『初夜が楽しみだの。』と舌なめずりをした。
「し、しょや!????」
甘く微笑まれると身体が勝手に浮き上がるとベッドまで運ばれた。
すとんっと置かれると足元にはお狐さんが着物の紐をゆるゆると外し始めた。
身体を起こしお狐さんの方に急いで近寄り「お、お、お狐さん!何してんの!??」紐を持っている手に両手を乗せ制止させた。
『何って契を交わすために衣を脱いでいる。決まっているであろう。』
「契り?」
『肇とも契りを交わしたぞ?それはもう濃厚で愛のあるいとなっ―――――「だぁぁぁぁ!何言ってんの!?は?え?エッチするって事?お、お狐さんあんた雄だろ?ってかその前に諸々なんかぶっ飛んでないっ?!!」お狐さんの言葉を遮るようにアタフタと話しながら後ずさる雅臣。
『まぁそうだがやりようはあるだろう?安心しろ。我はまさおみに抱かれたいんだ。』
とんでもない妖狐を解き放ってしまったと、曽祖父を思い出しながら思考を巡らせている雅臣だった。
***
こうなったら覚悟を決め組み敷かれている状態からお狐さんの腕を取り引っ張りながら上体を反転させると、今度は雅臣がお狐さんを組み敷いてみた。
しばらくお狐さんを見下ろしてみるが、生唾を飲み込む音さえも聞かれてしまいそうな距離にお狐さんの整った顔があり、今更になってどうしていいのか分からないことに気づいた雅臣は大きくため息を漏らしながら「やっぱりちょっとたんま……。」とお狐さんの隣に横になった。
2人で寝ても充分広いはずのベッドの筈なのに、随分と狭く感じるのは思いの他お狐さんのガタイがいいからだろうか。
「そもそも僕、男とエッチなんてした事ないし。」
『そうか。しかし女子 を抱くのとそう大差はないがな。』
(いや大違いだと思うけど!!!)
そんな言葉は口に出されることなく勢いよく隣を見たが、少しはだけた前身ごろから青白いお狐さんの肌が見えた瞬間何故かドクンと心臓が跳ねた。
『まさおみ、お主今頬が紅潮しているようだがどうかしたのか?』
わざと衣をはだけさせながらそう言うと『我がリードしてやろう。臆することはないぞ。』
身体をくねらせ衣がはらりと肩から落ち先ほどよりも青白い肌が露出するとお狐さんの目つきが変わった。
一瞬ひるんだ雅臣だが、お狐さんの透き通るような肌とその表情にやられ我を忘れてしまった。
お狐さんは雅臣にキスをされながら自分で残りの衣を脱ぎ雅臣の着ている服のボタンを外し始めると、貪られていた唇が離れていった。
「自分でやれ―――――。」雅臣がそう言いかけた所で今度はお狐さんが雅臣の唇を奪った。
「んんっ!!!!」
そのキスは初めにした時よりも濃厚で執拗に雅臣の舌を追いかけ絡め取るように追いつくと一気に吸われる。
何処でどうやってお狐さんのスイッチを押してしまったのか、戸惑いながらも雅臣も負けじとそれに応えた。
互いに呼吸を整えるように唇が離れると『やはりまさおみとの接吻は意識が遠くなるようだ…。』
「キスだけでこんなに感じてるってお狐さん敏感過ぎじゃない?」
『まさおみの愛を感じるからな。』
「え、愛?」
そう聞いてもまたキスをせがまれ首に絡んでくるお狐さんの腕で引っ張られると再び唇を重ねた。
先ほどよりも少し密着した身体は火照り、いつの間にか互いの下半身が反応している事に気がついた雅臣は思わず視線を落とした。
(なん……で……。)
『愛だと言っているだろう?まさおみ。』
「えっ……。」
何も言っていないのにそう言われながら服の上から膨らみをそっと撫でられた。
『まさおみのこれが、早く欲しいのだが?』
妖艶に微笑みながら自分の体を少し浮かせ雅臣の首筋から顎にかけてペロッと舐める。
「お狐さんって意識的に人を煽ってるの?」
自分の下半身に置かれている手を取り握りしめながら「わかった。ちゃんと抱くよ。」とお狐さんの耳元で囁いた。
***
薄らと目を開けたお狐さんは天井を一点に見つめながら自分の状況を考えた。
隣の気配は感じられないという事は、このベッドには自分しかいない。
『まさおみは、何処へ行ったのであろう。我を置き去りにしおって。』
小さくため息をついて雅臣の匂いがする布団に顔を擦りつけているとパタンとドアが閉まる音が聞こえ顔を上げると、雅臣が眠たそうに眼を触りながらこちらに向かって歩いてくるのが見え気持ちが一気に浮上した。
雅臣が布団に入ったのと同時にお狐さんは背中に抱き着きそこに見える首筋に甘噛みすると「いたっ。」小さく声を上げられた。
『目が覚めて一人にさせられた我の気持ちに比べたらこの痛みなど大したものではないだろう。』そう言ってまた首筋を甘噛みされた。
牙のような前の歯をつきたてられたのに、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。
『まさおみと契りを交わせた事、心の底から嬉しく思うぞ。』
「……必死だったなって顔やめてくれない?初めてだったんだから仕方ないでしょう。」
『初めてか?本当に?』
自分が甘噛みした箇所をペロッと舐めながらすりすりと腕に絡んでくるお狐さんの尖った耳を見ながら「だから言ってるでしょう。男の人となんてしたことないって。」言いながらちょんっと耳の先を人差し指ではじいた。
それに無意識だろう反応を見せピクッと耳が小さく左右に振るえた。
『何度意識が飛びそうになった事か。』
「いや、実際飛んでたからね。」
雅臣はふとした疑問をお狐さんに投げかけてみた。
「所でお狐さんって、どうやって巻物に戻るの?」
『ん?それは、少しずつ話してやろう。今はこの瞬間を楽しめ。まさおみ。』
お狐さんと出会って妙な関係になったけどそれは不思議と嫌な気持ちはしなくて、雅臣のそばを片時もはなれないお狐さんはほかの人は見えていない。
だって彼は妖狐だから。
不思議な力想っていると言われているけれど、それを発揮するのはいつの事になるやら。
もしかしたら、その力を発揮したら雅臣のことなど忘れてしまうかも?
そう思ったら今はこの状況を噛みしめておこうと思ったのだった。
-END-
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