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父さんは、スマホのムービーのボタンを押したらしく「ピコン」という電子音がした。 撮影って、写真じゃなくて動画かよ。 僕は心の中で力なくツッコミをいれた。 カメラを顔に向けられた。 「ああ、空はやっぱり可愛い顔をしているねぇ。お母さんにそっくりだ。」 「…っ」 見られたくなくて僕は目を反らしたが、顎を掴まれ、クッと前を向かされる。 ピンポーン 突然、家のベルが鳴った。 誰?こんな時間に…。 「お、きたか。空、ちょっと待っていなさい。間違えても逃げ出そうなんて考えるなよ?」 そう言い残すと、スマホを一旦止め、父さんは玄関に向かった。 少ししてから、父さんと同い年くらいの中年のおじさんを連れて戻ってきた。 「この子がうちの息子の空だ。といっても血は繋がっていないがな。」 「へぇ~、この子が。女の子にしか見えませんねぇ。へぇ、こいつは想像以上だ」 「やだぁっ」 その男に、身体を上から下まで舐めるように見られ、僕はしゃがんで両手で身体を隠した。 「空は元々女顔だが、今は女の子用の下着をつけてるから、余計に女の子に見えるだろう」 「いやいや、これはそこらの女の子以上ですよぉ。ずるいなぁ、こんな可愛い息子さんがいたなんて、もっと早くに紹介してくださいよぉ」 男は卑下た笑みを浮かべながら言った。 恐怖で全身に悪寒が走る。 「そ、その人…だれ…?」 やっとの事で絞り出した声は、自分でもびっくりするくらい震えていた。 「あぁ、この人は父さんの会社の同僚だよ。空の話をしたら是非会いたいと言っていてね」 父さんは平然と答えた。 こんな異常な状態をなんとも思わないような口ぶりで。 「ハァハァ、僕は、彼に触ってもいいんですよね!?」 その男は興奮した口ぶりで言った。 「駄目に決まってるだろう。空に触れていいのは私だけだ。約束通り、お前は撮影だけをしろ。いいな」 男は随分引き下がっていたが、渋々了承したようだ。 父さんは、自分のスマホをその男に手渡した。 「わたしの言うとおりに撮影するんだ。いいな?さぁ、空、立ちなさい」 背後から脇に手を入れられ、立たされた。 そして、再び後ろで手を縛られる。 それと同時に再びムービーのボタンが押された音がした。 「やっ、撮らないで…っ」 女性用の下着を見につけさせられた僕の身体を、カメラは上からゆっくりと写していく。 静かな部屋には、二人の大人の荒い鼻息だけが、こだましていた。

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