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僕の家に着き、僕は車の外に出た。
終わってしまう。
先生との時間が。
「じゃあな、結城。今日はマジでありがとう」
「あ、せんせ…」
帰ろうとする先生を小さく引き止める。
「ん?なんだ?」
先生はサイドブレーキを引いて、僕を見た。
言わなきゃ。
ちゃんと言わなきゃ。
「ぼ、僕、バイトしてるんですけど、月水金なんです。火曜と木曜は予定とか、ないんです」
辿々しく喋る僕の言葉を先生は静かに聞いていた。
「な、なので、もしご予定とかなければ、火曜と木曜っ、ダンスの練習、しませんか?僕、もっとうまく教えられるように…」
「もちろんだ!!!」
僕の言葉を遮って先生が大きな声で言った。
「ありがとう!嬉しいよ、結城!俺もそう言おうと思ってた。でも、俺の都合で結城の時間を拘束する訳にいかねーから、言わずにいたんだよ。是非頼むよ!」
先生はそう言ってくれた。
凄く嬉しかった。勇気を出してよかったと思った。
でも、先生があまりに大きい声を出すから、そっちが心配になってしまった。
「せ、先生、声大きいですよ…!近所迷惑になっちゃいますよ!」
「あ、すまん。つい、な。じゃあ結城、また明日、学校でな!」
先生はまたニコッと笑う。
僕はまたドキッとする。
「はい、また明日」
僕も笑顔を返してみた。
先生の運転する車が発車して、その車が見えなくなるまで僕はひたすら見つめていた。
車が角を曲がって見えなくると、少し寂しくなって、先生がくれたピーナッツバター入りのパンを取り出して、食べてみた。
おいしい。
甘さの中にしょっぱさがあって。
ピーナッツバターってこんな味なんだ。
先生と過ごしたあっという間の時間
何故か、ずっと鳴り止まない胸の音
心に明かりが灯るような感覚
甘くて少しだけしょっぱい、ピーナッツバターの味
初夏の匂い
僕は、きっと、
この日を忘れない。
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