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僕らは、息を切らしながらも海岸に着いた。
「はぁっ、なんとか、間に合ったな」
先生が肩で息をしながら言った。
「せんせ…っ、はぁっ、速すぎ…っ」
体力のない僕は先生以上に肩で息をしており、前かがみで両手を膝において息を整えた。
「結城、見てみろよ」
先生に言われて、僕は顔を上げた。
「わぁ…」
僕は思わず声をあげた。
そこには、エメラルドグリーンの海が広がっていた。
そして、今まさに登ろうとしている朝日が、海を照らしていた。
初めて見た海。
それは、あまりにキレイで、輝いていて、僕は目を奪われた。
現実じゃないみたい。
まるで魔法のようだった。
「これを結城に見せたかったんだよ」
先生は言った。
「先生…、先生が魔法をかけたの…?」
思った事がそのまま口から出た。
一筋の涙が頬を伝うのを感じた。
先生は魔法をかけてくれたんだ。
僕の心に。
「ほんとに、よく泣くよな」
そう言って、僕の頬の涙を大きな指で拭ってくれた。
「結城…、空」
そして、先生は、僕の事を初めて空って読んだ。
僕は黙って先生の方を見る。
「俺は空が好きだ。」
拭ってもらったばっかりなのに、もう涙が目から溢れた。
海の波打つ音が聞こえる。
それは、優しい音色のようだった。
「空、過去を無くすことはできない。でも…、だから、"これから"を一緒に作ろう。俺と空で、2人で、未来を作っていこうぜ」
「せ…んせ…っ」
嗚咽でうまく喋れない。
昨日あれだけ泣いたのに、本当によく泣くな、僕は。
先生のせいだ。
先生が流させた涙が、辛いことや悲しいことを全て洗い流していくようだった。
これも、先生の魔法なの?
「せんせ…ぃ、僕も、ぅっ、せんせ…のこと、しゅき」
……!!
か、噛んでしまった!
しゅきって言っちゃった!
「ぷっ、ははは!空、ほんっとにかわいいな!」
先生は僕をぎゅっと強く抱きしめた。
そして、囁くように言った。
「空、好きだぜ。いや、しゅきだぜ、か」
「…っ、先生の…いじわる…」
僕は真っ赤になった顔を見られたくなくて、先生の広い胸に顔を埋めた。
横目でちらっと海を見ると、水面が朝日を反射して黄金色にキラキラと輝いている。
宝物だ。
初めて見た海
初めて感じた気持ち
キラキラと輝いた、僕の大切な宝物だ。
先生と僕は見つめ合った。
そして、先生は僕にキスをした。
優しいキスだった。
暑い夏の日。
それは、
永遠のようで、
一瞬のようで、
僕にとってのすべてだった。
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