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第25話
「あ、普段は実家にあまり帰らないんです。ふらふらいろんな場所や友達の家に泊まってて」
「……なんかあんのか?」
「えっと」
彼はカバンをごそごそ開けて、奥の方から紙切れを取り出すと俺に差し出してきた。
「家が……ラブホテル経営してて小さいころからからかわれてて、帰りたくないんです」
受け取った紙切れは市内のラブホテルの割引券や朝食サービス券、ポイントカードまであった。
こんな可愛い顔で家がラブホ経営なら確かにセクハラまがいのいじめが起きそうだ。
「この割引チケットはもらっていいのか?」
「はい。沢山あるので」
「じゃあお礼に、からかう奴は俺がぶちのめしてやる。すぐに俺を呼べ」
ポケットにくしゃくしゃにしながら入れると、彼は子犬のように尻尾を振りだした。
よく見ればその尻尾は子犬じゃなくて狼だったのだが、それは今の俺には分からない。
「わああああ。いいんですか。あのずうずうしいかもですが、先輩の連絡先とか」
「かまわねえよ」
そんなにひどくいじめられていたのか。
携帯で赤外線で連絡を交換する。
「これ、なんて呼ぶんだ」
「明昌(めいしょう)って。友達には、めえくんって呼ばれてます」
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