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第63話

明昌は、女二人に抱き着かれてもよんぴーだのただれた言葉を聞いても平気そうだった。 間違いなくあいつは童貞ではない。それどころか女を大切にしない軽薄な奴だ。 俺と正反対のくせに顔は良いとか本当にあいつは卑怯だ。 「ねえねえ、先輩君のどこに惚れたの?」 「えっと慎ましやかなあそことか? 触らないと顔を出してくれない奥手なとこかな」 「奥手っていうか硬派なんだろうね」 「……おい」 三人を注意するのはあきらめ、後ろに駆け寄った。 後ろの誰もいなくなったベンチで、若いサラリーマンが胸を押さえて苦しそうに倒れ込んでいた。 「おい、どうした? 大丈夫か?」 「あ。ああ。すまないね。ちょっと眩暈が」 「おい」 真っ青な顔のサラリーマンを見て、急いでネクタイを緩め、ベルトをとると抱えた。 「大丈夫だ。少し横になれば」 「そうやって無理して仕事行こうとしたら悪化する。駅員のとこにベットあるから連れて行く」 ひょいっと抱えられるサラリーマンは、明昌同様に軽かった。 「すまん。遅刻する。さきに行っていてくれ」 「……先輩」 自分でもそんな役だよなあと思いつつ、サラリーマンを抱えて駅員のいる方へ歩いて行った。

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