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第67話
熊谷 炬隈の場合。
メロスは走った。じゃねえ。
俺はガチで走った。なぜなら、あと三回遅刻したら、俺は追試験を受ける権利はく奪だとバスケ部の顧問にきつく言われていたからだ。
この体格なので俺は、満員電車は遅刻してでも乗らないようにしていたので朝とても早く登校するか、潔く遅刻していた。が、三日に一度の頻度で遅刻していたので流石に怒られた。
足を怪我してからもうバスケなんてしなくていっか、とやっと青春を謳歌していたがそれも激しかったらしく怖がられた上に怒られたので遅刻だけはしないようにしていたつもりだった。
だがあの具合の悪そうなサラリーマンがどうしても連絡先を教えろってうるさくて、気づいたらこんな時間だった。
でたらめな電話番号を教えてきたが、ああいうのは困る。
俺が『サラリーマンを助けて遅刻しました』と言うと大体信じられなかったのだ。
だからどうせ遅刻しても、誰も信じてくれない。
ので急ぐしかねえ。
こんな時、中身は卑猥でも外見が可愛い明昌が羨ましくなる。
「こらー! 炬隈! おまえ、遅刻したら俺の熱い指導再びさせんぞおおお」
「げえ」
俺よりも熊っぽいバスケ部顧問のじじいも校門に立っている。
終わった。俺の人生は終わったんだ。
「まあ、待ちなさい。バスケ部顧問の落合くん」
やや説明口調にバスケ部顧問を説明したのは、校長だった。
「彼は、具合の悪いサラリーマンを介抱していて遅刻したらしい。今日の遅刻は不問だ」
「え」
「え?」
走っていた俺も止まった。
禿げ散らかした校長の横に、誇らしげに明昌が立っていた。
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