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第70話

どんなに離れなかった明昌が、簡単にはがれて教室の床に倒れ込む。 それを見ていた女子たちが駆け寄ってきた。 「めえくん、大丈夫?」 「だめよ。炬隈は顔がいいだけで乱暴な男なんだからこっちおいで」 さっそく女たちに話しかけてもらっている。 俺なんて、遠巻きにひそひそされるだけで話しかけてももらえねえっていうのに。 「そんなことないです。先輩は、今日、貧血のサラリーマンを助けてました。昨日は僕も助けられました。あ、昨日は僕を抱きかかえて今日は、サラリーマンを抱きかかえたけどビッチじゃないですよ」 「誰も思わねえよ」 おどおど、もじもじしていた明昌が、俺を見ながら頬を染める。 「僕は、言い訳をしない、ヒーローを気取らない、そんな先輩が好きなんです。セクハラされても気づかない、ちょっと危機感のない先輩だけど、優しくて強くて憧れなんです。射程距離に居たい……じゃなくて舎弟になりたいです」 「はあ?」 「すげー。こぐまが可愛い後輩ゲットしてるぞ」 「よーし、一年、俺たちに焼きそばパン買ってこい」 周りがぎゃははと笑う中、射程距離から明昌は俺をずっと見ている。 「射程……いや、舎弟になりたいんです」 「だが、断る」

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