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第86話

「乗りたいのかな?」 「あいつも、……お願いします」 樹木寺さんは嫌な顔一つせず、明昌も乗せてくれた。 乗り込んできた明昌が、(置いていったな!)と今にも襲ってきそうな顔を向けてきたがみないふりをした。 来なければ一番安全だったのに。 「僕もエステに興味があってぇ。綺麗なお姉さんがいいなあ」 「ベテランを呼びましょう」 「お、俺も、おねしゃーっす」 まじか。綺麗な大人のお姉さんに体を触られるのか。 しまった。昨日、もっときれいにお風呂に入っておけばよかった。 シャワー浴びてから行けばよかった。今日も昼休みにバスケしたから、めちゃくちゃ汗臭いかも。 「いえ。炬隈くんは私がマッサージします」 「え?」 「私のゴールドフィンガーで、あなたの足の不調もすぐに治しますよ」 「……そっすか」 樹木寺さんが、……社長自らしてくれるのか。 そうか。全然嬉しくないけど腕だけは確かだよな。全く嬉しくないけどな。 全くの一ミリも。ちんこが縮みそうなほど嬉しくない。 「や、でも忙しい社長にお願いするのも悪ぃし、やっぱ俺、ベテランのおねーさんでいいかな」 「命の恩人に恩返しすることのほうが、どんな仕事より大事なんです」 「……そっすか」 帰りたいな、と言いかけてぐっと飲み込んだ。 「ねー、ゴールドフィンガーだってよ。ぷぷぷ。AV男優みたいな特技。ぷぷぷ」 「だまれ」 くそう。こいつと変わりたい。代わってやりたい。

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