86 / 155
第86話
「乗りたいのかな?」
「あいつも、……お願いします」
樹木寺さんは嫌な顔一つせず、明昌も乗せてくれた。
乗り込んできた明昌が、(置いていったな!)と今にも襲ってきそうな顔を向けてきたがみないふりをした。
来なければ一番安全だったのに。
「僕もエステに興味があってぇ。綺麗なお姉さんがいいなあ」
「ベテランを呼びましょう」
「お、俺も、おねしゃーっす」
まじか。綺麗な大人のお姉さんに体を触られるのか。
しまった。昨日、もっときれいにお風呂に入っておけばよかった。
シャワー浴びてから行けばよかった。今日も昼休みにバスケしたから、めちゃくちゃ汗臭いかも。
「いえ。炬隈くんは私がマッサージします」
「え?」
「私のゴールドフィンガーで、あなたの足の不調もすぐに治しますよ」
「……そっすか」
樹木寺さんが、……社長自らしてくれるのか。
そうか。全然嬉しくないけど腕だけは確かだよな。全く嬉しくないけどな。
全くの一ミリも。ちんこが縮みそうなほど嬉しくない。
「や、でも忙しい社長にお願いするのも悪ぃし、やっぱ俺、ベテランのおねーさんでいいかな」
「命の恩人に恩返しすることのほうが、どんな仕事より大事なんです」
「……そっすか」
帰りたいな、と言いかけてぐっと飲み込んだ。
「ねー、ゴールドフィンガーだってよ。ぷぷぷ。AV男優みたいな特技。ぷぷぷ」
「だまれ」
くそう。こいつと変わりたい。代わってやりたい。
ともだちにシェアしよう!