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第130話

抱きしめられるというよりも、ずるずると引きずられながら家から出た。 なんでこの男、はだけたバスローブ姿なんだ? 「君も煙を吸ったかもしれないから、空気のいい場所に。救急車がここに入れないらしくて、歩けないなら引きずるけど」 「あ。樹木寺さんか」 まだ少し興奮していた僕は、先輩以外の判断がついていなかった。 そうか。先輩を僕から隠せる財力ある大人って言えば樹木寺さんしかいなかったか。 でもなんでバスローブなんだよ。 先輩の方を見たら、米俵みたいにおじさんを担いで救急車のとこまで走って行ってる。 足に腰に弟くんたち三人がしがみついているのに、走っておじさんを抱えられてるなんて、僕の好きな人、格好いい……。 「彼を責めないでほしいんだ。放っておいたら二丁目にでも消えそうなほど、儚げな表情だったから隔離してたんだ。制服のクリーニングができるまで連絡できないように遮断したり、ね」 「……樹木寺さん」 僕を立たせると、ふわりとバスローブが風に舞って黒ビキニが見えた。 この人、バスローブにビキニ姿で先輩と一緒にいたの。 「こんな時に聞くのもあれですけど」 ようやくホースが先輩の家の庭まで到着して、放水が始まった。 黒い煙の中、赤い火が小さくなっていくのが分かる。 火災自体は広がっていないけど、狭くて小さな商店街のせいで煙は酷かったらしい。 じゃなくて、僕は樹木寺さんにを見た。 「先輩に手を出しました?」

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