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第132話

走ってくる先輩に両手を広げたけど、僕はすぐに心を閉ざした。 どうみてもサイズに会っていないパツンパツンの服。 樹木寺さんの家に会った服をとりあえず着ましたって感じ。 『チェリーボーイ』って書かれているのも見らずに慌ててきた感じは愛おしいけど、これは……。 「お前、具合は悪くねえか?」 「さあ」 先輩を机に縛り付けてあんなことこんなことしたのは、許してもらえなくてもいいけど、先輩の精液を樹木寺さんに飲まれたと思うと、腸が煮えくりかえりそう。 「俺は――」 先輩は頭を掻きながら、少し目を泳がして言葉を迷っている様子だった。 その姿にときめくけど、僕は怒っているので下を向いていた。 「俺は、お前は変態で嫌な奴だと思っていたし今も思っているんだが――」 酷い人だ。僕の気持ちも知らないで、ひどい――。 でも次の瞬間、先輩が僕に抱き着いた。 先輩の方が背が高いから、かがんでくれて、背骨が折れそうなほど強く強く抱きしめてくれた。 「でも――。お前が親父を救出してくれなかったら、親父、あと少しで命がやばかったって」 「先輩……」 「ありがとう。明昌、ありがとう。お前が親父と弟たちを助けてくれたおかげだ。ありがとう」 震える先輩の肩越しに、消火されて水の勢いで崩れていくトタン屋根のお風呂が見えた。 まるで燃え上がっていた僕の心が沈下されたみたいだ。

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