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第134話

背骨を軋ませるほど、きつくきつく締め付けていた手がほどけた。 「俺は、自分が許せねえんだ。親父と弟たちが死ぬかもしれなかった時間に、スッポン鍋なんか食べてた俺が」 「それは、確かに最低かもしれない……」 ナニしてんの、この人。 顔を上げた先輩が、誰かに呼ばれて振り返った。 「すまん、親父に付き添う。弟たちを頼めるか? 家は煙がまだ入ってるから眠れないだろうけど」 「大丈夫です」 体で払って、といった僕の言葉に返事をしないまま消えていこうとするのか。 「ちんこ挿入は嫌だが」 「うん」 「……それ以外で俺が罰を受けられるなら、受ける」 「!」 「だから、頼むな」 先輩は苦しそうに顔を歪めていた。 まだ手も肩も震えている。 間に合わなかったらどうなっていたか、先輩にのしかかる不安や責任がきっと今、ぶわっと肩に乗っている。 恐怖と戦っているんだ。 「はーい、そこの将来有望な三人は、お兄さんとふかふかのベットで寝ようか」 「樹木寺さん」 樹木寺さんは時折バスローブをなびかせ、黒ビキニをちらつかせながら、僕にウインクした。

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