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第137話

こいつを殴り足りなかったはずなのに、俺には今、こいつを殴る資格なんてなかった。 もし親父や弟たちに何かあったら、、俺はきっとじっぶんが一生許せなかった。 「……僕がもう少し力があったら親父さん、もっとはやく助けてあげられたし、そうやって先輩が怖い思いしないですんだのになって」 「はっ。別に俺は怖くねえよ」 「……手が震えてるよ」 「すいませーん、早く乗ってください」 明昌の手を振り払って救急車に乗り込んだら、なぜか明昌も乗ってきた。 「怖かったでしょ、先輩」 「怖くねえよ」 「でも、僕も怖かったから。だから先輩のそばから離れないって決めました」 腕にぎゅっとしがみついてきた明昌が震えているのが分かった。 怖かったのに、俺のために、――本当にありがとう。 「じゃあ、甘えさせてもらおうかな、てめえに」 「ええ。どうぞ。僕に膝枕してもらって寝てください」 「いやだよ。ちんこ、当たるだろ」 「うおぉっほぉん」 意識を回復していたジジイから、大きく咳祓いをされたのは、まあ、軽く死にたくなる出来事だった。

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