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第144話

そのままにやけた顔の明昌を横に、親父の病室へ向かう。 四人部屋の窓際に陣取り、呑気に相撲の中継を見ていた。 「おい、親父。大人しくしとけよ」 「ああ、来たか。そっちのバッグが汚れもんだ」 さも当たり前のように俺に顎で示すと、明昌がせっせと受け取った。 「おじさん、これ、新しいパンツです」 「悪いなあ。いっつもよ。その汚れ物も炬隈に持たせろよ」 「いいんですよお。おじさんはまず体を治すことを考えてくださいね。あ、この着替えは洗濯機に今回してきちゃいます」 パタパタと消えていく明昌に、親父は破綻した顔で手を振っている。 「よお、炬隈」 「なんだよ、死にかけ」 「あんないい子、もう男でも女でも関係ねえよな。 大切にするんだぞ」 「ぶっ は? 馬鹿じゃねえの!?」 火事で頭の中まで燃えてしまったのか、このクソジジイは。 「いい子じゃねえか。毎日、俺なんかのために見舞いに来るし。あんな細い体で俺を運び出そうとしてくれたし、弟たちもなついてる」 「……親父があいつと再婚すれば?」 俺がそういうと、親父が手招きした。 仕方なく近づくと、思いっきり頭を殴られた。 「いてえなあ!」 「あんな、あいつはお前に惚れてんだろうが」

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