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革張りのシートの上に倒れ込んだ俺は、言葉を発せないほどに震えていた。
警察官の二人が近づいてきて、その立花という男と話している。
俺の事を気づいて、そのままいつものように助けて。
そう祈るのに、二人は立花さんと少しだけ会話した後、俺のマンションがある方角へ走って行った。
不吉な予感が頭を過る。
蹲る葉山さんは、もう俺の事なんて助けない。
それどころか、俺を利用してでもこの状況を奪回しようと模索するだろう。
車のシートの上で、縮こまって誰にも助けを呼べない自分は――惨めだった。
理不尽な扱いは、慣れていた。
自分のなよなよした、女みたいな顔立ちのせいでトラブルもよく巻き込まれたし。
このヘアサロンで働く前に、半年ほどしていた、訪問散髪で老人の髪をセットしていた時も、言われない罵倒で簡単に心が折れて止めてしまったし。
自分の心の弱さも、情けなくて自信が持てない原因の一つだった。
自分の肩を抱いて隅の方で震えていたら、立花という男が戻って来た。
「お前、火災保険には入っていたか」
運転席で、シートベルトを締めながら、立花さんはミラー越しに俺を睨んで来た。
息も出来なくなるような、まっすぐな瞳に息を吸えなくなる。
怖い。この人の瞳は怖い。
「あの、マンションなら引っ越してきたばかりでお金が無くて――保険系は給料日まで何も手続きをしていませんでした」
「軽率だったな」
短く刺さる言葉に、両手が痺れて行くのがわかる。
自分の体なのに、ふわふわして自分じゃないみたいだ。
車が大通りへ出ようと出たら、建物のすぐそばまでマスコミが火事を報道しようと出ていた。
もしかして、俺のこともニュースででてしまうのだろうか。
「俺、――俺、どうなるんでしょうか」
頼れるものは何もないし、――誰も居ない。
こんな状況になっても、何も縋れず、自分のするべきことが分からなくて泣きたくなる。
「心配はしなくていい」
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