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心に染みわたるような心地の良い低い声で、立花さんは言う。
それに救われて顔を上げた時、またミラー越しに目があった。
「俺に従えば、お前の安全は保障してやる」
従う――?
上から押さえつけるような言葉に、耳を疑う。
「俺の言う事が聞けないなら、借金まみれで風俗にでも沈むのが目に見える」
無表情なのに、真っ直ぐに射抜くように睨む立花さんが怖くて、下を向いた。
む、無理矢理乗せられて、どんな人かもよくわからなくて、
俺を抑えつけようと威圧的で。
この状況で、俺がこの人を信用することはできなくて、不安で今すぐ……消えてしまいたくなる。
信号待ちの時、虚ろな目で空を見上げると満月が歩道橋に掛っていた。
「俺は、お前を探し――」
立花さんが何か言いかけたけれど、俺はふらりと外へ出た。
「おい!」
低く短く怒鳴るその声も、もう耳にも届かなかった。
中学の時、母の浮気で親が離婚した。
母は、綺麗な人だった故に、ちやほやされるのが堪らなく好きな――極度の自己愛者。
そんな母がこう言い放ったのが、俺の不幸の始まりだった。
『本当にこの子が貴方の子かなんて、――私には分からないわ』
結婚後も複数の男の人と関係を持っていたらしい。
そんな、自分の子供かも疑わしい俺を、父は疎み始め、
母は、自由に皆に愛される為に手放してくて。
高校に入学した時には、二人の生活から俺は消えていた。
祖母の介護で、髪を弄るのが楽しかった俺は、そのまま高校を卒業と同時に今の店に就職した。
けれど、高卒の俺よりも、後から入って来た専門学生とかが担当を持ちだしたのをみて、此処でも俺は要らないんだと現実に押しつぶされそうになった。
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