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二、優しく冷たい檻の中。
「は、離して下さい」
今度は助手席に乗せられると、ドアもロックされ尚且つ髪を掴まれたまま、逃げることも出来ず――いや、違う。
逃げる場所なんて無い俺は、本気で抵抗はしなかったんだ。
男が荒い運転で苛々しているのが分かると身体は委縮してしまったし。
ようやくその一言が言えたのは、車から降りた時だった。
今度は手首を強く掴まれて、キーを差し込んだまま車から飛び出てホテルのロビーへ引っ張ら手ていく。
そこがホテルのロビーではなく、マンションのロビーなんだと理解出来たのは、立花さんがエレベーターにカードキーを差し込んだ時だった。
上の五つの階だけ、専用のカードキーを差し込まなければエレベーターは着かないらしい。
立花さんがカードキーを差し込むと、一番上の最上階の丸いボタンが点滅した。
「あの、も、逃げませんから、手を」
「――」
不機嫌そうな顔で離された。
けれど、強く握られ引っ張られた腕は、赤く腫れてしまっていた。
「白い肌だと、余計に赤く見えるな」
低い声でそう言われ、ぞっとして思わず壁際まで下がる。
この人がつけたのに。
なのに、悪びれもせず俺の手首の痕を眺めているなんて。
「俺に従うなら、手荒な真似はしない。借金も帳消ししてやる」
「な――なんで、そんなに、俺に親切にするんですか!?」
こんな、とりえもない俺に、何でそんな提案をしてくれるのか本気で分からない。
「親切か? 俺は俺の欲望を満たすだけ。死んでしまうつもりだったお前の命はもう俺にモノ。俺が何しようとお前への親切では無い」
ふんっと小馬鹿にされて笑われた。
じゃあ、俺を何処に連れて行くんだ?
この人と二人きりの時点で怖くて堪らない。
「着いた。入れ」
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