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掴んでいた腕に、思い切り噛みつくと立花さんは小さく息を吐いて俺の手を離した。 夜の風に、静かに色打掛が揺れながら――立花さんの足元を遮ってくれた。 逃げなきゃ 玄関へ――。 廊下を走りながら、ただただ玄関のドアノブ目指して走る。 「何処にも行き場所もないくせに、逃げてそうする」 「――いっ」 髪を簡単に捉えられると、立花さんが低い声で笑う。 「何処に逃げても、お前を助けてくれる奴なんていない。今日で分かったんじゃないのか?」 「いた、いです」 「俺だけだ、俺だけがお前を守れる」 後ろから抱き締められて――耳元で悪魔の様に囁かれた。 「簡単に死のうとしてしまうお前の安っぽいその命が俺は欲しい。俺のものだ」 「は、はなし」 「まだそんな事を言うのなら、じっくり教えてやろうか。先ほど捨てたこの命が、誰のものか――女じゃないかを確かめながら」 振り返らなくても分かった。 俺はこの人の瞳を見た時から逃げることなんて出来なかったんだって。 玄関に押し倒された俺は、そのまま馬乗りになってきた立花さんを見上げることしか出来なかった。 「逃げたり抵抗したら、莫大な借金をお前が返せるか? 俺がどこに行っても見つけて払わせるぞ」 馬乗りのまま、徐に立花さんがズボンのベルトを外してファスナーも下ろした。 そのまま片手で立花さんはまだ大きくなっていないソレを持ち、俺の後ろ頭を掴んだ。 「舐めろ。服従の意思をちゃんと俺に見せろ」 「っい、いーーんんふぅっ」 鼻を摘ままれ、そのまま床に押し付けられるように腰を振られると、床と立花さんの間で俺は口を開けて息をするのがやっとだった。 口に広がる苦い味に、熱に、重量に、思わず涙が込み上げてくる。 「全然気持ちよくないな」 「んうっ」 ポロポロと涙が視界を奪った。 苦い、怖い、苦しい、誰か――。 宙をさまよう手が、情けなかった。 誰にも必要とされない癖に、こんな時に誰かに縋るなんて。

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