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Side:立花 優征 吉祥文様の貝が散りばめられた目に焼きつくような、綺麗な朱色。 「貝合わせ」という遊びの道具。ばらばらにした蛤の貝殻の中から一対の貝を当てる、ということと運命の相手に巡りあえた花嫁をなぞらえて婆さんがこいつに着て欲しいと贈られた品。 ボケかけていたクソ婆が、何を血迷ったか俺を呼び出した。 子供が出来なかったらしく、じじいがキャバ嬢との間に俺を産ませたのが御立腹で俺は酷い仕打ちを受けていた。 養子縁組もされず、最低限の義務教育の御金だけ振り込まれて、会ったことは最初の一回だけだったのに、だ。 『私の命令が聞けるならば、全財産を貴方に譲って差し上げましょう』 ふざけるな。 そんな汚い連中が群がる金なんぞいるわけない。 ボケた婆の顔を見たら、笑って帰ってやるだけのつもりだった。 「貴方の心の隙間を埋めてくれるような、暖かな人。貴方とは対のように、自分に自信もなくて自分なんて生まれて来なければ良かったって悲しい目をしている」 「は?」 「あの子を幸せな花嫁にしてあげて頂戴。あの子を幸せに出来るのは貴方だけよ」 俺を遠ざけて、俺の顔をみるなり泣き崩れたクソ婆が、俺ではなく他人の幸せを願っていた。 本妻というプライドの着物をいつも身に纏い、俺を最後まで認めなまった婆が。 ――それでも、俺は弁護士に聞いて知ってたんだけどな。 腐った親戚連中の中、この婆だけが俺の教育援助の金を支援してくれたのを。 俺を罵って頬を打っておきながら。 「何で俺?」 「私を尋ねに来てくれたのは、貴方とあの子だけだからよ」 一度だけ。 一度だけ、こっそり婆と愛沢の二人が仲睦まじく髪を切っているのを見たことがある。 綺麗な黒髪を後ろに無造作に縛り、ジーンズにTシャツと着飾らない姿で、 綺麗に笑うその姿を。 婆が、孫に接するかのように、乙女の様に笑っていたのも忘れられない。 あの綺麗なお人形のような男が、今、俺の隣で気を失うかのように眠っている。 いや、気を失っているのだろう。 シーツの上をバラバラに這う長い髪の毛が、俺の欲情を掻き立てる。 止まらなかった。

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